[出典] "In vitro and in vivo CRISPR-Cas9 screens reveal drivers of aging in neural stem cells of the brain" Ruetz TJ [..] Brunet A. bioRxiv 2021-11-23 [プレプリント] https://doi.org/10.1101/2021.11.23.469762
 Stanford Uの研究グループからの投稿.
 哺乳類成体の脳では加齢に伴って,神経幹細胞 (neural stem cell, NSC)の静止状態から活性状態 (増殖)への移行能力が低下する.このNSCの機能低下は,神経細胞の新生低下や損傷時の再生不良をもたらす.
 NSCsでは,加齢に伴って多くの遺伝子の発現が上昇し,これらの遺伝子のいくつかについては,それらのノックアウトによって,NSCの活性化が促進され脳の機能が若返ることが報告されている.しかし,加齢したNSCs (一般的に加齢細胞でも)における遺伝子のゲノムワイドの機能解析は行われていない.
 研究グループは,初代NSCおよびマウス脳におけるハイスループットなCRISPR-Cas9スクリーニングのプラットフォームを整備し,そのノックアウトによって老齢マウスのNSCが活性化する一連の遺伝子を探った.
  • 老齢NSC由来の初代培養細胞を対象とするゲノムワイド・スクリーニングにより,300を超えるそうした遺伝子を同定した.その中で,上位の遺伝子は,グルコース輸入,繊毛組織化,おおよびリボ核タンパク質の構造に関与していた.
  • 次に,Cas9を帯びた老齢マウスの側脳室内の脳室下帯に近接した部位に,初代NSCスクリーニングからの候補遺伝子を標的とするsgRNAライブラリーをステレオタキシック・インジェクション(脳内への定位的注入)し,5日後に嗅球から採取したDNAを解析することで,マウス脳内スクリーニングを実現した.その結果,そのノックアウトが老齢NSCの活性化を促進し,老齢脳における新しいニューロンの産生を促進する遺伝子23種類を同定した.特に,グルコーストランスポーターGLUT4をコードするSlc2a4のノックアウトが,老齢NSCsの活性化に最も効果的なことを,特定した.
  • GLUT4タンパク質の発現が,加齢に伴って幹細胞ニッチで増加し,老齢NSCsは若いNSCsに比べて約2倍も多くのグルコースを取り込むことも明らかにした.さらに,グルコースを一時的に飢餓状態にすると,老齢NSCsの活性化能が高まったが,これに対するSlc2a4/GLUT4のノックアウトによる若返り効果は見られなかった.
 本研究は,加齢に伴うNSCの活性化能の低下には,グルコースの取り込みの変化が寄与して,加えて,遺伝子や外部からの介入によってそれを逆転させることが可能なことを,明らかにした.また,加齢に伴うNSCの機能低下を抑制するスケーラブルな遺伝的介入を培養細胞でも加齢した脳内でも可能にするプラットフォームを提供することになった.