[注] VOC (Variant of Concern, 懸念される変異株)
出典] "Rapid test to assess the escape of SARS-CoV-2 variants of concern" Heggestad JT [..] Chilkoti A. Sci Adv. 2021-12-03. https://doi.org/10.1126/sciadv.abl7682 
2021-12-04 15.23.18 Duke UniversityとDuke University Medical Centerの研究グループは今回,野生型 (WT)のSARS-CoV-2および他の3種類の変異株 (アルファ/B.1.1.7, ベータ/B.1.351, およびガンマ/P.1)のスパイクタンパク質とACE2受容体との間の相互作用を遮断することができる中和抗体 (neutralizing antibodies, nAbs)を検出する「CoVariant-SCAN」と呼ばれる迅速検査法を開発した [Fig.1引用右図参照].

CoVariant-SCANによるウイルスの免疫逃避能(中和抗体の有効性)評価
  • B.1.1.7, B.1.351, P.1. CoVariant-SCANを用いて,COVID-19-陽性者とワクチン接種者由来のモノクローナル抗体と血漿の中和/ブロッキングを評価した.
  • いくつかのモノクローナル抗体とほとんどの血漿サンプルにおいて,ベータ株とガンマ株に対する中和はWTから減少したが,アルファ株はほぼ交差中和されることを同定した.2021-12-04 15.23.29
  • Regeneron社の抗体カクテルと他の26種類のmAbを比較し,Regeneron社の抗体カクテルが変異株に対して他のmAbsよりも強力な防御力を発揮することを同定した [Fig. 5引用右図参照].
  • CoVariant-SCANは,新たな変異株にも迅速に対応可能である.SARS-CoV-2の変異体の配列が特定され,GISAID(Global Initiative on Sharing Avian Influenza Data)などのリポジトリに登録されると,これらの変異体の組換えRBDを迅速に発現,精製し,インクジェットでプレートに"プリント"するだけである.
  • 実際に.本研究の進行中にアッセイの再構築や再最適化を行うことなく,"プリント"するだけでデルタ (B.1.617.2)株に対するnAbs検出を実現した.
  • CoVariant-SCANを用いた結果は,生ウイルスを対象とする中和アッセイの結果と一致した.
 CoVariant-SCANは複数のSARS-CoV-2変異株に対するnAb反応の迅速評価に利用可能であり,SARS-CoV-2の新たな変異株に対する自然免疫とワクチン誘導免疫の両方の有効性の評価に有用である.

CoVariant-SCANの限界
  • ACE2-RBDブロックをベースとして抗体中和を見ているが,これは補体活性化や抗体依存性細胞傷害などの効果は見ていない.
  • RBD内の変異のみを考慮しているため、いくつかのnAbsの重要な標的であるSのN末端ドメイン内など,中和に影響を与える可能性のあるRBD以外の部位で発生する変異は考慮していない.
  • SARS-CoV-2感染の予防に重要な役割を果たすことされている初回感染や免疫後の記憶T細胞による細胞性免疫の役割を考慮していない.
[参考/復習] 新型コロナウイルスと中和抗体
1. 新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)の構造
  • SARS-CoV-2は,ヌクレオカプシド (N),膜 (M),エンベロープ (E)およぶスパイク(S)の4つの構造タンパク質を持つ一本鎖RNAウイルスである.
  • Sタンパク質は,S1ドメインとS2ドメインで構成され,SARS-CoV-2のウイルスコート (viral coat)上に露出して,ヒト細胞に対する付着,融合,侵入,感染に必須の役割を果たしている.
  • 特に,S1の受容体結合ドメイン (RBD)が,SARS-CoV-2のヒト細胞受容体であるアンジオテンシン変換酵素2 (ACE2)と結合して,ウイルスのヒト細胞内への侵入を仲介する.
  • ウイルスの侵入に重要な役割を果たすSタンパク質は,COVID-19ワクチンおよび抗体ベースの治療薬の標的となっている.
  • アルファ変異株には,RBD-N501Yを含む9つの変異がSタンパク質に含まれており,ACE2との結合親和性を高め伝搬性を高める要因となっている.幸いなことに,いくつかの研究が,COVID-19回復者の血清とワクチン接種者の血清がアルファ変異株を効果的に交差中和し,中和抗体の考慮t口低下はわずかであることが示されている.
  • 一方で,南アフリカで発生したベータ変異株とブラジルと日本で発生したガンマ株は,それぞれRBD内に3つの変異,K417NまたはK417T, E484K, およびN501Y,を帯びており,モノクローナル抗体 (mAb)療法による中和を回避し,自然感染や免疫によるポリクローナル抗体による中和に対しても耐性があることが明らかになっている.また,インドで確認されたデルタ変異株,さらに,南アフリカで初めて感染が判明したオミクロン変異株がVOCに加わっている.
3.中和抗体 (nAbs)検出法
  • 中和抗体を検出するための主なアプローチは、マイクロ中和アッセイまたはプラーク減少中和試験であり,RBDに結合するnAbsを介して許容細胞におけるSARS-CoV-2の侵入/複製の機能的中和をモニターする.しかし,これらの試験法は労力とコストがかかり,バイオセーフティレベル3の施設で高度な訓練を受けた人材を必要とする。
  • SARS-CoV-2のSタンパク質でシュードウイルス化した水疱性口内炎ウイルスやレンチウイルスを用いた中和アッセイも報告されている.これらのアッセイはバイオセーフティレベル2の施設で行うことができるが,それでも生きた細胞を必要とし,アッセイの実施に24時間以上を要する.
  • レベル2または3の封じ込め施設の必要性を回避するために,酵素結合免疫吸着法(ELISA)タイプのACE2-RBD結合阻害アッセイ法が開発された.ELISAプレートを用いた競合的結合阻害法により,ACE2と精製したRBDとの相互作用をブロックするnAbsの能力を測定する手法であり,従来の中和試験と高い相関性を示すことが報告されている.
 地球規模のSARS-CoV-2パンデミックの中では,研究設備,人材,予算などが乏しい地域でも,簡便かつ迅速な診断システムが求められており,中和抗体の評価もその対象の一つである.