[出典] NEWS AND VIEWS "Human genetic variants identified that affect COVID susceptibility and severity" Asgari S, Pousaz LA. Nature 2021-07-08. https://doi.org/10.1038/d41586-021-01773-7; 論文 "Mapping the human genetic architecture of COVID-19" COVID-19 Host Genetics Initiative. Nature 2021-07-08. https://doi.org/10.1038/s41586-021-03767-x

 SARS-CoV-2感染によって重症から死に至る人々が出る中で,無症状のままウイルスが検出されなくなる人々もいる.こうした個人差についてはこれまで,年齢や基礎疾患などのリスク因子や,社会経済的な要因などの環境因子との関連について解析が進められてきたが,ヒトのゲノム変異との関連については解析が進んでいなかった.
 
 COVID-19 Host Genetics Initiative (以下,CoHGI)は,49,562人のSARS-CoV-2感染者(うち13,641人が入院し,そのうち6,179人が重症) のゲノムを,感染歴がない対照者約200万人のゲノムと比較することで,SARS-CoV-2への感受性および重症度と関連するゲノムの領域13カ所 (遺伝子座)を明らかにした.このうち4ヶ所の遺伝子座の変異が感受性と関連しており,他の9カ所の変異が疾患の重症度と関連していた.

 SARS-CoV-2に限らず,感染症のヒトゲノム解析研究は,自己免疫疾患などの他の疾患にくらべると例数が少ない.その最大の理由は,感染症研究は主としては宿主であるヒトよりは病気を引き起こすウイルスや微生物に注目して研究が進められるからである.さらに,ヒトの個々の遺伝子座の変異は,前述のリスク因子や社会経済的因子に比べると症状や予後に与える影響が比較的小さい.このような一般に小さな影響を特定するには,大規模かつその特徴が明確にされたヒト集団を対象とする研究が必要である.最後に,慢性疾患とは異なり、感染症の重症度と転帰を特徴付けるための期間が,個人が症状を呈している間の短期間に限定されてしまう.

 CoHGIは,パンデミック初期に大規模な国際共同研究を迅速に立ち上げることで統計解析が可能になる十分な大規模な参加者を得ることができた.約3000人の研究者と臨床医からなるこの共同研究は,46件の研究から,遺伝子変異と共に,重症度 (3段階に分類),リスク因子などのデータを集積した.参加者は,特定のヒト集団や地域に偏らないように,6種類のヒト集団 [*]と19カ国から集められた [* 欧州系,米国 (admixed Americans)系,アフリカ系,南アジア系,および東アジア系].

 GoHGIが今回同定した13種類の遺伝子座には,これまでCOVID-19感染と関連づけられていなかった6種類の遺伝子座が含まれており,そのうち重症度に関連する2種類は,東アジアの祖先を持つヒト集団を解析に加えたことで発見された.その1つであるFOXP4 に近い遺伝子座の頻度は,東アジア系 32%,米国系 20%,中東系 7%,欧州系2〜3%と,ヒト集団に偏りが見られた.FOXP4 についてはこれまでに,近位および遠位の気道上皮に発現し,肺の発生過程において上皮細胞の運命を制御する役割を持つことが示されている.
 
 COVID-19の生物学的特性,および,これらの遺伝子座と疾患の転帰を関連づける機構をより深く理解するために,GoHGIは,各遺伝子座の近傍にある遺伝子 (候補遺伝子)を探索した.その結果,40以上の候補遺伝子を同定したが,その中に,免疫機能や肺の機能と関連することが知られていた遺伝子で含まれており,呼吸器系疾患であるCOVID-19の像と整合した.
 
 候補遺伝子の一つTYK2 については,この遺伝子の変異が,他のウイルス,バクテリアおよび真菌による感染症への感受性を高める可能性を帯びており,TYK2 の特定の変異が,SARS-CoV-2の感染による入院と重症化のリスク因子である報告されている.また,候補遺伝子の中の DPP9 遺伝子において重症化と関連する変異を今回同定したが,この変異は,肺組織を損傷することを特徴とする肺疾患のリスクを高めることが知られていた.
 
 今回の成果を基盤として,今後,次のような展開が求められる:
  • 同定された一連の遺伝子座とSARS-CoV-2感染の症状との間をつなげるシグナル伝達経路などの分子レベルの表現型を明らかにしていく.
  • 参加者の多様性を広げる努力が試みられたが,それでも,参加者の約80%が欧州系であったことから,非ヨーロッパ系のヒト集団の参加を広げていく.
  • 医療へのアクセスなどの環境因子の解析を充実させていく.
  • ヒトゲノムの変異とSARS-CoV-2のゲノム変異の組み合わせが転帰に及ぼす影響も解き明かすというより複雑な解析を進める.