Naure Medicine誌が第一線の研究者から,CRISPR医療やサイケデリック療法から腫瘍溶解性ウイルスまで,
2022年期待の臨床試験11例について聴き取った.
2022年期待の臨床試験11例について聴き取った.
[出典] "11 clinical trials that will shape medicine in 2022" Arnold C. Nat Med. 2021-12-10; Table 1 Clinical trials in 2022 参照].
1. ユニバーサル・インフルエンザ・ワクチン [米・国立アレルギー・感染症研究所]
- Neil P. King. Institute for Protein Design (IPD, 所長 David Baker), WashU
- 複数のインフルエンザウイルスの抗原を同一のナノ粒子表面に共発現させたモザイク・ナノ粒子免疫原 (mosaic nanoparticle immunogen FluMos-v1)を使用することで,複数のインフルエンザウイルス株に対する抗体を誘導することを目指している.
- 前臨床試験において,既存のインフルエンザワクチンよりも多様な防御抗体を誘発することが確認された.
- 次の段階として,FluMos-v1を接種する前のインフルエンザウイルス感染や既存ワクチンの接種によって誘導されて免疫との相互作用の解析に進む.
- NCT04896086
[crisp_bio補足] IPDにおけるSARS-CoV-2を対象とする薬剤開発
- IPDとSK bioscienceが共同開発したCOVID-19ワクチン候補のナノ粒子とアジュバントからなる‘GBP510’,は,第1/2相試験にて328人の健常者99%に中和抗体を誘導した.2021年8月から3,990人を目標とする第3相試験 (NCT05007951)が始められている; "Elicitation of Potent Neutralizing Antibody Responses by Designed Protein Nanoparticle Vaccines for SARS-CoV-2" Walls AC, Fiala B [..] Veesler D, King NP. Cell 2020-10-31. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.10.043
- 新型コロナウイルス: ピコモル親和性で結合し阻害するミニバインダーをデノボで創製. https://crisp-bio.blog.jp/archives/24296560.html; "De novo design of picomolar SARS-CoV-2 mini protein inhibitors" Can L [..] Baker D. Science. 2020-09-09. https://doi.org/10.1126/science.abd9909
2. ハンチントン病に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド (ASO) [Roche/Genentech]
- Claudia Testa (Precision Medicine and Neurogenetics)
- ハンチントン病の治験は2021年3月に無益性 (ftility)を理由に早期終了したが,このASOは,市場に出ているASOと異なり変異型と野生型の双方のハンチンチンmRNAを標的とする新規技術であり,全ての結果を解析し,被験者の様々なバイオマーカーにどのような影響を与えたかを知ることが,今後のAS0治療に有用な情報を提供する.
3. アミロイドーシスのCRISPR療法 NTLA-2001 [Regeneron/Intellia Therapeutics]
- Julian Gillmore (Royal Free London Hospital)
- CRISPR技術を利用することで,1回の点滴により,肝細胞特異的な遺伝子編集を介して,患者に有意義な臨床的改善をもたらす可能性が出てきた.
- [参考] crisp_bio 2021-09-05 CRISPR/Cas9 KOによるヒト遺伝病in vivo治療の第1相試験始まる - トランスサイレチンアミロイドーシス.
- Monique Wasunna (Drugs for Neglected Diseases Initiative Africa Regional Office, Nairobi)
- 現在のカラアザール治療薬の注射剤に含まれる毒性のあるスチボグルコン酸ナトリウム,経口投与のミルテフォシンに置き換えることを目的とするミルテフォシン (miltefosine)とパロモマイシン (paromomycin)の併用療法の第3相試験
- 臨床試験患者の60%を12歳以下が占めており,予備的な結果では,子供に対する高い有効性が期待される.
- NCT03129646
5. シグマ1受容体を標的とする神経変性疾患療法 [Prilenia Therapeutics]
- Blair Leavitt (University of British Columbia Centre for Huntington’s Disease)
- シグマ1受容体を標的とする経口低分子治療薬である 'プリドピジンは,これまでのヒト臨床試験で安全性が確立され,ハンチントン病の臨床的進行を評価する第3相臨床試験で試験された唯一の薬剤であり,筋萎縮性側索硬化症を対象とした第2/3相試験が現在進行中である.
- NCT04615923
6. 筋ジストロフィーにおけるエキソンスキッピング [Nationwide Children’s Hospital / Audentes Therapeutic]
- Kevin M. Flanigan (The Ohio State University College of Medicine.)
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)の男児の少数は,DMD遺伝子のエクソン2の重複が病因である.
- 重複したエクソン内のスプライスドナーとアクセプターの部位に向かう配列を持つ非コード小核RNA U7のコピーをAAV9で送達(AAV9 U7 snRNA)することで,DMDエキソン2のコピーを除去し,完全長の野生型ジストロフィンを発現させることに成功した.
- この他にDMD遺伝子治療の治験が4例進行中であるが,いずれも,人工のマイクロ・ジストロフィンをコードする遺伝子を導入する必要がある.
- NCT04240314
7. サイケデリック療法 [COMPASS Pathways]
- David Nutt (Imperial College London)
- 菌類由来のサイケデリック物質であるシロシビンによる精神疾患療法の第2a相試験
- 現在の治療法に抵抗性があるうつ病を対象としていること,多施設・多国で行われていること,3種類の用量 (1mg, 10mg, および25mg)が試されていることに期待している.
- NCT03775200
8. 腫瘍溶解性ウイルス [アステラス]
- 米満 吉和 (九州大学)
- 進行性・転移性固形癌患者を対象とする,ASP9801を腫瘍内注射で投与する第1相非盲検試験
- ASP9801は,抗腫瘍免疫反応を刺激する2種類のサイトカイン (IL-7とIL-12)を発現する腫瘍溶解性オワクシニア組み換えウイルスである.
- ASP9801は,複数の免疫不全マウスモデルで有効であり,直接治療した腫瘍と遠隔転移した腫瘍の両方で有望な結果を示した.
- NCT03954067
9. RSウイルスに対する長期持続型モノクローナル抗体 [MedImmune/AstraZeneca]
- Ruth A. Karron (Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)
- ウイルス表面のFタンパク質を標的とするモノクローナル抗体nirsevimabは,現在のRSウイルスに対するモノクローナル抗体であるパリビズマブの半減期が約1カ月であるのに対して,半減期が長いYTE変異を有することで1回の投与でRSウイルスの初感染シーズンを通して乳幼児を守ることができる可能性があり,モノクローナル抗体が予防薬として承認されるか興味深い.
10. トリプルネガティブ乳癌に対するアジュバント免疫療法 [National Cancer Institute]
- Jennifer Litton (Anderson Cancer Center)
- もともとは進行性メラノーマの治療薬として開発されたペムブロリズマブ (商品名キイトルーダ)は,その後,さまざまな癌の治療薬としても承認されるようになった.
- 本試験は,高リスクのトリプルネガティブ乳癌患者に対するペムブロリズマブのアジュバント使用に関する重要な疑問に答える.
11. 既存薬の再利用によるCOVID-19療法
- Edwards Mills ( McMaster University)
- TOGETHER治験 [TOGETHER trial]にて,2021年に9つの異なる介入を評価し,そのうち6つは有効性がみられず極めて早い段階で中止し,それによって時間と費用を節約することができた.
- また,TOGETHER治験において,低コストの再利用薬であるフルボキサミン (商品名: ルボックス; デプロメール)がCOVID-19による入院を防止することを発見した.
- 今後,フルボキサミと他の薬剤との併用療法の有効性を明らかにしていく.
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