東大医科研佐藤 佳准教授が主宰するThe Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)からの報告
2021-12-28 05:56/08:10 記事の文末に添えた[注]のテキストを一部改訂
1.デルタ株では,スパイクタンパク質の分割効率,ヒト細胞への融合性,および病原性のいずれも祖先株や他のVOC株よりも高い
[出典] プレスリリース "SARS-CoV-2デルタ株に特徴的なP681R変異は ウイルスの病原性を増大させる" 東京大学医科学研究所. 2021-11-26. https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/index.html (参加研究機関のWebサイトでも広報されている); 論文 "Enhanced fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Delta P681R mutation" Saito A, Irie T, Suzuki R, Maemura T, Nasser H, Uryu Y [..] Tanaka S, Nakagawa S, Ikeda T, Fukuhara T, Kawaoka Y, Sato K. Nature. 2021-11-25. https://doi.org/10.1038/s41586-021-04266-9
  • 培養細胞での感染実験により,デルタ株が,従来株や他のVOCよりも, 細胞融合活性( fuspgenecity)が高いことを明らかにした.
  • ハムスターでの感染実験により,デルタ株は、従来株と比べ,ウイルスの増殖効率はほぼ同程度であるが,肺組織において炎症を示すII型肺胞上皮細胞が増えるなど,従来株よりも高い病原性を示すことを明らかにした.
  • さらに,スパイクタンパク質内でデルタ株に特徴的なアミノ酸変異P681Rに注目し,培養細胞での実験で,P681R変異が細胞融合活性の要因であることを示唆する結果を得,ハムスターでの感染実験で,P681R変異が顕著な肺機能の低下と肺の炎症応答の憎悪を示すことを見出した.
  • P681R変異は分子レベルでは,新型コロナウイルスがヒト細胞に感染するに必須のステップの一つであるスパイクタンパク質の切断を促進する機能をもたらしていた.
2.オミクロン株の感染力はデルタ株の3〜5倍であるが,スパイクタンパク質の分割効率,ヒト細胞への融合性,および病原性のいずれも,従来株を下回った 
[出典] "Attenuated fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Omicron variant" The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan). Googleドライブ およびツイッター  The Sato Lab (Kei Sato) @SystemsVirology 2021-12-27; プレプリント・サーバーに投稿予定
  • デルタ株は,スパイクタンパク質の分割効率が高いため細胞への融合が促進されたが,オミクロン株ではその分割効率が顕著に低い (ヒトの個々の細胞への感染性は低い).
  • ハムスターの感染実験では,体重の減少,呼吸機能検査および病理解析から,祖先株やデルタ株よりも病原性が低いことが示唆された.特に,個体の肺の中での感染と拡散が低レベルであった.
[crisp_bio 注1]
  • 上記のオミクロン株に関する報告は,プレプリント・サーバからもまだ公開されていないが,その結論「オミクロン株は,感染力が高く,病原性が低い」は,英国や米国などで,オミクロン株がデルタ株を圧倒しつつある一方で,重症者も死者も相対的に抑制されている状況と整合するように見える.
  • ただし,実社会での感染拡大における重症化の相対的抑制は,オミクロン株感染拡大の今は,デルタ株が席巻するに至った時期に比べて,おおむね既感染者の割合とワクチン接種率が高くなっていることが主因かもしれない.
  • 一方で,ワクチン2回接種者への感染例が続き,3回接種者への感染例も報道されていることから,ワクチン接種により誘導されたヒトの免疫応答に対するオミクロン株の回避性が,デルタ株より高まっているのかもしれない.
 [crisp_bio 注2] The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)の先行論文
 [crisp_bio 注3] オミクロン株の特性に関するcrisp_bio記事