crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

1. オミクロン・スパイクタンパク質の免疫回避能,感染性,および細胞融合性
[出典] "SARS-CoV-2 Omicron spike mediated immune escape, infectivity and cell-cell fusion" Meng B [..] Sato K, Gupta RK; CITIID-NIHR BioResource COVID-19 Collaboration; G2P-Japan; Consortium, Ecuador-COVID19 Consortium. bioRxiv. 2021-12-22 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2021.12.17.473248
  • オミクロンBA.1株はデルタ株に比べて,治療用モノクローナル抗体およびワクチン2回接種による誘導されるポリクローナル中和抗体に対する回避性が顕著に高いが,ワクチン・ブースター接種によって中和抗体が回復する.
  • オミクロンBA.1株に対して抗ウイルス剤のレムデシビルとモルヌピラビルは有効性を保持する.
  • スパイクタンパク質のサブユニット (S1/S2)切断に有利と予測される3つの変異にもかかわらず,その切断効率はデルタの場合よりも大幅に低い.
  • オミクロンスパイクを組み込んだシュードウイルス (PV)の下気道オルガノイドとCalu-3肺細胞への侵入が,デルタスパイクタンパク質を組み込んだPVとは異なり,損なわれた.
  • TMPRSS2スパイクタンパク質を介したヒト細胞への感染には,S1/S2切断とTMPRSS2に依存する[右図参照; crisp_bio 新型コロナウイルスの感染は、ヒト細胞のACE2とTMPRSS2に依存し、慢性膵炎治療薬で阻害される]が ,PVではなくオミクロン株自体も,TMPRSS2を発現している肺細胞においても複製度が著しく低い.前述の一連のin vitro データは、オミクロン株スパイクタンパク質のS1/S2切断が不完全なために,TMPRSS2を発現する下気道細胞の効率的な感染が抑制されることを示し,上気道に見られるようなTMPRSS2陰性細胞の感染は抑制されないことを意味する.
  • 2021-12-28 8.30.16また,冒頭にあったように,オミクロン株は,免疫回避性を獲得することでデルタ株を凌ぐ感染拡大をもたらしていることが示唆された.
  • [参考] 右の挿入図はbioRxiv 投稿掲載のFigure 2-aと,Supplementary Figure 2 - aから引用:それぞれ,オミクロン株のゲノムの構造(上段),ならびに,祖先株,デルタ株およびオミクロン株のスパイクタンパク質のACE2受容体結合ドメイン (RBD)内の変異の分布とACE2内のアミノ酸との関係図 (下段)
2. オミクロン株はデルタ株に比べると,気管支により早くより重く感染するが,肺への感染はより軽い
  • [出典] NEWS "HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung" LKS Faculty of Medicine, 香港大学.2021-12-15.  https://www.med.hku.hk/en/news/press/20211215-omicron-sars-cov-2-infection
  • 香港科学技術園 (HKSTP)免疫・感染センターのMichael Chan Chi-wai博士と香港医学部病理学科のJohn Nicholls教授は,2007年から気道のex vivo 培養を利用して,鳥インフルエンザ,中東呼吸器症候群 (MERS)など多くの新興ウイルス感染症の研究を続けてきた.この技術により今回,2020年に発見されたSARS-CoV-2の祖先株およびデルタ株と比較し,オミクロン株の感染性や重症化が他の株と異なる可能性がある要因を明らかにした.
  • オミクロン株は,ヒト気管支内で祖先型とデルタ株よりも速く複製され,感染後24時間で,他株の約70倍のレベルに至った.一方で,オミクロン株のヒト肺組織での複製効率は低く (< 10分の1),重症度が低くなることを示唆した.
  • 今回の結果について,Michael Chan Chi-waiは,以下のように警告した:「ヒトにおける疾患の重症度は,ウイルスの複製だけでなく,サイトカインストームが決定的であることに注意すべきである.また,非常に感染力の強いウイルスは,多くの人に感染することで,ウイルス自体の病原性は低くても重症者や死者を増加させていく可能性がある.オミクロン株がワクチンや過去の感染による免疫を部分的に回避できるとする我々の最近の研究 [本記事第3項目参照]と合わせて考えると,オミクロン株の脅威は決してあなどれない」
3.オミクロン株は,ファイザー・ビオンテックのmRNAワクチンBNT162b2が誘導する中和抗体を回避する
[出典] NEWS "HKUMed-CU Medicine joint study finds COVID-19 variant Omicron significantly reduces virus neutralisation ability of BioNTech vaccine" KS Faculty of Medicine, 香港大学.2021-12-12. http://www.med.hku.hk/en/news/press/20211212-omicron-avoids-killing-by-blood-serum
[注] 本項は項目2の報告に先立つ報告
 香港大学医学部の研究グループは,オミクロン株はヒト気管支において,デルタ株と祖先株に比べて70倍速く感染し増殖することを見出した.これで,オミクロン株がこれまでの変異株よりもヒト間で速く感染する可能性があることが説明可能である.
 また,肺の中でのオミクロン株の感染率は祖先株よりも有意に低いことを見出した.これは,オミクロン株の重症度が低いことを示唆する.
 BNT162b2を2回接種し1ヶ月後に採血した10人の血清で,祖先株とオミクロン株に対するウイルス中和テストを行なった結果,BNT162b2は祖先株に対して臨床試験の結果と同レベルの中和活性を示すが,オミクロン株に対する中和活性のレベルは32分の1にまで低下することを,見出した.

[関連crisp_bio記事] G2P-Japanからの報告紹介
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット