[出典] ESSAY "Evolutionary plasticity and functional versatility of CRISPR systems" Koonin EV, Makarova KD. PLoS Biol. 2022-01-05. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001481
 CRISPR/Casシステムの分類体系を提案し更新しているNCBIのKooninとMakarovaが,表題について最新の考察を披瀝した.
  • この10年余りの間に,CRISPR/Casシステムの多様性と,免疫機構とCRISPRシステムとその構成要素の外適応 (exaptation)にみられる機能の可塑性が明らかになった.Origins and evolution of CRISPR-Cas 3
  • CRISPRシステムの進化は、2つのクラスといくつかのタイプおよびサブタイプで収束的に起こった2つの段階を含んでいると思われる [Fig. 3 引用右図参照].
  • 第一段階では,典型的な可動遺伝因子 (MGE)に由来するコア要素の周りに,補助タンパク質やドメインが付加されることによる初期の複雑化が進み,第2段階は,単純化と要素の分解であり,具体的には,獲得免疫機能における干渉に必要な構成要素の消失や不活性化が繰り返される.
  • 分子機構から見ると,CRISPR/Casシステムの祖先型から派生した型の多くは,ガイドRNAを利用してタンパク質複合体を作用部位に誘導するという普遍的な原理に沿って機能しているが,ガイドRNAによる誘導の機構から逸脱した派生型が存在する可能性がある.
  • 機能的な観点から見ると,MGEとその宿主である原核生物の間で,しばしば還元性進化 (reductive evolution)を伴いながらRNAがガイドするシステムが行き来する“guns for hire”が続いてきた.
  • CRISPR/Casシステムの派生型は,MGEあるいは原核生物の比較的狭い範囲にとどまっており,比較的最近進化し,特殊な機能を担っている可能性が高いことが示唆される.さらに,これらのシステムは、しばしば「エキゾチック (exotic)」なバクテリアやアーケアが宿主であるため,その生物学的特性評価が困難であり,また,間違いなくこのような派生型が多数自然界に埋れている.
 この10年間にCRISPR/Casシステムの中核となる機構が解明されつつあるが,CRISPR/Casシステムの真の機能の複雑さ,特にその進化を促す微生物生物学の側面は,ほとんど未解明であり,CRISPR/Casシステムの多様性の研究から,今後何年にもわたって,魅力的な発見が続くであろう.
 
 [参考] Fig. 3以外に用意されている図一覧
Fig. 1Origins and evolution of CRISPR-Cas 1CRISPR/Casシステムが獲得免疫としての機能とゲノム構造に基づいて分類整理されている. 
 [右図はFig. 1からの引用]DNAを標的とするタイプI, IIおよびV; RNAを標的とするサブタイプIII-EとタイプVI; DNAとRNAの双方を標的としcOA二次情報伝達分子を生成するサブタイプIII-AとIII-B; DNAとRNAの双方を標的とするがcOAを伴わないサブタイプIII-C; RNAを標的としてcOAを伴うサブタイプIII-D
Fig. 2:進化過程で獲得免疫以外の機能へと外適応 (exaptation)した派生型CRISPR/Casシステムのゲノム構造が用意されている.
Fig. 4:crRNAsまたは反復配列の外適応のモデル図が用意されている.

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