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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Engineered virus-like particles for efficient in vivo delivery of therapeutic proteins" Banskota S, Raguram A [..] Liu DR. Cell 2022-01-11. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.12.021; Graphical abstract https://els-jbs-prod-cdn.jbs.elsevierhealth.com/cms/attachment/18b14f49-6ecf-4464-afd9-70336f57c9ad/fx1_lrg.jpg
 一連の塩基エディターを開発したDavid R Liuグループは今回,ウイルス様粒子 (Virus-Like Particles: VLP)の改善を重ねて,生体内で治療効果を発揮する塩基エディターとCas9ヌクレアーゼのデリバリーを実現し,人工ウイルス様粒子 (engineered VLP: eVLP)としてCell 誌から発表した.
[注]以下,David R Liu教授のご了解を得て,教授の簡にして要を得たツイート14件のうち#2から#13までを図とともに引用. オリジナル論文から一部補足]
David R. Liu https://twitter.com/davidrliu @davidrliu 1月12日スクリーンショット 2022-01-14 14.40.17
 遺伝子治療や生体高分子治療薬の実現に向けて,タンパク質をヒト生体内の細胞へと送達する技術が,いまだに,解決すべき重要な課題である.VLPはウイルスによる送達と非ウイルス性送達の双方の利点を生かした技術であるが,生体内でのタンパク質送達効率が低いことが示されてきた.2/14
スクリーンショット 2022-01-14 14.39.24 (研究グループは)はじめに既報のVLPの足場にヒントを得て,塩基エディター (ABE)のリボ核タンパク質をカーゴとしてパッケージ化した第一世代 (v1) VLPを設計した.v1 VLPは高用量であり,培養細胞の編集には高効率をもたらしたが,マウス肝臓への静脈内投与における編集効率は2%に留まった.3/14

スクリーンショット 2022-01-14 14.38.27 VLPのタンパク質を生体内に効率的に送達する可能性を引き出すために,生体内細胞におけるカーゴの放出,カーゴのパッケージングと生体内での局在化,VLP成分の化学量論比を体系的に分析し,それぞれに内在するボトルネックの解決策を見出した.4/14
スクリーンショット 2022-01-14 14.41.10 カーゴ放出の効率化については,v1 VLPで使用したウイルスのgagタンパク質とABEを結合するリンカー配列を見直すことで,eVLP成熟後のカーゴの効率的な放出を促進すると共に,eVLPに取り込まれる前のカーゴの早期切断を最小限に抑制した (v.2.4 eVLPs).5/14
スクリーンショット 2022-01-14 14.11.55
 次に,細胞質へのカーゴ局在化(VLPタンパク質のレベルを19倍に)と,その後のカーゴの核局在化を,核局在化シグナルに加えて細胞質への核輸出シグナルをリンカーの対向する部位に配置することで,実現した (v.3.4 eVLPs).6/14

スクリーンショット 2022-01-14 14.27.19 最後に,カプセル化されたカーゴの量とウイルス構造タンパク質およびプロテアーゼの量のバランスをとる最適なeVLP成分の化学量論比が存在することを同定した.7/14

スクリーンショット 2022-01-14 14.28.24 これら3つのソリューションを組み合わせた第4世代 (v4) eVLP (以下,eVLP)は,in vitro およびin vivo のいずれにおいても,哺乳類細胞へのタンパク質送達能力を大幅に高め,かつ,v1 VLPの5~26倍高い遺伝子編集効率を実現した.8/14
スクリーンショット 2022-01-14 14.29.37 eVLPによってin vitro において,初代ヒト線維芽細胞やT細胞など,さまざまな不死化細胞や初代細胞にABEタンパク質において,効率的送達を実証した.また,異なるエンベロープ糖タンパク質を使用することで,eVLPのトロピズム (細胞指向性)の制御も実現した.9/14

スクリーンショット 2022-01-14 14.31.41 マウスDnmt1 にサイレント変異を導入するABEをカーゴとするeVLPをマウス新生仔の脳室に注入し (P0 ICV (neonatal cerebroventricular) injection),皮質と中脳それぞれにおいて,蛍光レポーターで確認した注入局所での効率それぞれ53%と55% (バルクの編集効率6.1%と4.4%)を達成した.また,eVLPによって,肝臓における標的遺伝子編集効率が63%に達し,血清中のPcsk9濃度が78%低下し,この性能は,臨床試験に向かっている最先端のウイルスおよび非ウイルス送達システムで達成された結果に匹敵した。10/14
スクリーンショット 2022-01-14 14.32.59 eVLPを遺伝性失明モデルマウスの網膜下に注射することで,病因変異を効率的に修正し,視機能を改善した.eVLPで投与したABEの発現は一過性であったが,レンチウイルスを介した投与したモデルマウスでは注入後5週間経過してもABEが発現し続けていた.11/14
スクリーンショット 2022-01-14 14.34.40 eVLPによる遺伝子編集タンパク質の発現が一過性であることから,そのオフターゲット編集はin vitro でもin vivo でもほとんど検出されず,この点で,プラスミド,AAVおよびレンチウイルスによる送達よりも優れている.また,eVLPはウイルスDNAを含まないため,発がん性DNAの組み込みのリスクはないと間がられる。12/14
 (研究グループの発見は),eVLPが,ウイルス送達(高い効率性と特異的組織トロピズム)と非ウイルス送達 (オフターゲット編集およびウイルスDNA統合のリスク低減)の双方の主たる利点を兼ね備えた治療用高分子送達のための有望な担体 (vehicle)であることを立証した.13/14。
 Cas9ヌクレアーゼの送達に関しては,既報のCas9-VLP [*]と比較して,インデル形成が4.7倍向上した,
 
 [*] CRISPRメモ_2019/01/04 [第1項] Nanoblades: Cas9-sgRNAをフレンドウイルス 由来タンパク質を利用してナノ粒子として送達することで、初代細胞とin vivoでの効率的ゲノム編集を実現."Genome editing in primary cells and in vivo using viral-derived Nanoblades loaded with Cas9-sgRNA ribonucleoproteins" Mangeot PE, Risson V, Fusil F, Marnef A [..] Ricci EP. Nat Commun. https://doi.org/10.1038/s41467-018-07845-z 
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