2023-01-04 Nature Biotechnology 誌から査読済み論文として刊行された。その書誌情報を追記し、ブログタイトルを「大規模DNA挿入法:V-K型CASTを利用した"カットアンドペースト"」から「V-K型CAST改変により, 大規模DNAカーゴの精密な"カットアンドペースト"を実現」へと改訂。
2022-01-20 bioRxiv投稿に準拠した初稿
[注] CAST: CRISPR-associated transposases/CRISPR関連トランスポザーゼ
2022-01-20 bioRxiv投稿に準拠した初稿
[注] CAST: CRISPR-associated transposases/CRISPR関連トランスポザーゼ
[出典] "Precise cut-and-paste DNA insertion using engineered type V-K CRISPR-associated transposases" Tou CJ, Orr B, Kleinstiver BP. (bioRxiv. 2022-01-09) Nat Biotechnol. 2023-01-02. https://doi.org/10.1101/2022.01.07.475005;"Behind the Paper" Tou C. Nature Portfolio Bioengineering Community. 2023-01-02.
CRISPR関連トランスポザーゼ(CAST)はRNAでプログラムされたゲノム上の位置に、組み換えによらない数キロ塩基のDNAの挿入を可能にする酵素である.その中で,I型CASTは、高純度(意図したカーゴのみが標的部位に挿入されることを意味し、単純挿入と呼ばれる)かつ高特異度(標的部位のみに挿入が起こることを意味する)な利点を備えているが、大型で構成要素が多く、挿入が反転している結果になる短所を伴っている。これに対して、V-K型CASTは,小型で構成要素が少なく、挿入が一方向であるという利点を備えている。一方で、V-K型CASTは,目的とするカーゴの挿入に加えて,複製型転位を介して,目的外のカーゴのコピーに加えてプラスミドバックボーンが混在する低純度な産物に至ることから,その有用性が損なわれている.Massachusetts General Hospitalの研究チームは今回,I型CASとV-K型CASとの長所を兼ね備えつつ短所を回避することを発想し、V-K型CASTから始めて純度や特異度をめる方が、I型CASTから始めてサイズや複雑さ、挿入の方向性を抑えるよりもはるかに実現性が高いという仮説のもとに、設計を進め、新たなCASTシステム'HELIX'を実現するに至った。HELIXは,Homing Endonuclease-assisted Large-sequence Integrating CAST compleXに由来し,複数のV-K型CASTにおけるTnsAサブユニットの欠落を補うようにしたシステムである [Nature Biotechnology 論文 Figure 1参照].
I型CASTとV-K型CASTの純度の違いは、I型CASTに存在するが、既知のV-K型CASTには存在しない酵素TnsAに由来していた。すなわち、TnsAと主要なトランスポザーゼであるTnsBは、協働してドナープラスミド上のカーゴを切り出し、最終的に"カットアンドペースト"を実現する。TnsAが欠損していると、カーゴの両側に1つずつしかニックができないため、複製転置 (replicative transposition)と呼ばれる複雑な機構が誘導され、望ましくない副産物が生成されるリスクが高まっていた。そこで、研究チームは、TnsBに直交するDNAニッカーゼを融合させることで、タイプV-K CASTに欠けているTnsAの機能を追加できないか、またそれによってTnsBの転置機構を複製型からカットアンドペースト型に切り替え、挿入産物の純度を向上させられないか、と発想した。
I型CASTとV-K型CASTの純度の違いは、I型CASTに存在するが、既知のV-K型CASTには存在しない酵素TnsAに由来していた。すなわち、TnsAと主要なトランスポザーゼであるTnsBは、協働してドナープラスミド上のカーゴを切り出し、最終的に"カットアンドペースト"を実現する。TnsAが欠損していると、カーゴの両側に1つずつしかニックができないため、複製転置 (replicative transposition)と呼ばれる複雑な機構が誘導され、望ましくない副産物が生成されるリスクが高まっていた。そこで、研究チームは、TnsBに直交するDNAニッカーゼを融合させることで、タイプV-K CASTに欠けているTnsAの機能を追加できないか、またそれによってTnsBの転置機構を複製型からカットアンドペースト型に切り替え、挿入産物の純度を向上させられないか、と発想した。
- 研究チームは、ニッキングにおけるTnsAの代役に、CRISPR-Casに先立って有望なゲノム編集因子とされていたホーミング・エンドヌクレアーゼ(以下、nHE)を選択し、DNAドナー上のカーゴを切除するデュアル・ニッキングに必要な5'ニッキング能力を回復させるように設計した.
- V-K型CASTのTnsBにnHEを融合させ、さらに、トランスポゾン末端に対応するnHEサイトを含むようにドナープラスミドを改変して、HELIXに至った。
- HELIXは,設計通りV-K型とI型のそれぞれの特徴を備え,標的部位への組込み効率を維持しながら,純度99.4%のカットアンドペーストによるDNA挿入を実現した.なお、V-K型CASTのオーソログの中でAcCASTをベースにしたHELIXが最も高性能であった。
- HELIXは標準的な野生型のCASTよりもはるかに高い標的特異性を示したが、野生型CASTには効果が無いがHELIXの特異性は高める因子群 (Cas12k-TniQ, Cas12k-TnsC, piタンパク質)も同定された。
- HELIXシステムは他のV-K型CASTオルソログにも展開可能であり、ヒト細胞で機能させることが可能である。
[CAST関連crisp_bio記事とDSBフリーな大規模DNA編集レビュー]
- 2019-06-13 短縮型I-F CRISPR-Casを帯びたトランスポゾンにより、DSBを介さず大腸菌ゲノム標的サイトにDNAをノックイン. https://crisp-bio.blog.jp/archives/18284118.html;"Transposon-encoded CRISPR–Cas systems direct RNA-guided DNA integration" Klompe SE, PLH Vo, Halpin-Healy TS, Sternberg SH. Nature 2019-06-12. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1323-z
- [20221015更新] CAST: Cas12kとトランスポザーゼの協働によりドナーDNAを効率よくノックイン. https://crisp-bio.blog.jp/archives/18164585.html;"RNA-guided DNA insertion with CRISPR-associated transposases" Strecker J [..] Zhang F. Science 2019-06-06. https://dx.doi.org/10.1126/science.aax9181
- REVIEW "Recent Advances in Double-Strand Break-Free Kilobase-Scale Genome Editing Technologies" You CJ, Kleinstiver BP. Biochemistry 2022-09-01. https://doi.org/10.1021/acs.biochem.2c00311
コメント