[出典] "Cas11 enables genome engineering in human cells with compact CRISPR-Cas3 systems
 University of Michiganに中国薬科大学とCornell Universityが加わった研究グループは2019年にMolecular Cell誌掲載の"Introducing a Spectrum of Long-Range Genomic Deletions in Human Embryonic Stem Cells Using Type I CRISPR-Cas"と題した論文にて,Thermobifida fusca (Tfu) 由来のI-E型CRISPR-Casシステム (Cascade-Cas3)を利用することで,ヒト胚性幹細胞 (hESC)とヒト一倍体細胞HAP1において,Cas9やCas12では容易に実現できない染色体の比較的長い領域の削除が可能なことを実証した.この手法は,一部では"DNAシュレッダー"として紹介された [crisp_bio 2019-04-10 "Cas9はスイスアーミーナイフ、Cascade-Cas3は自走するシュレッダー"参照]
 研究グループは今回,Neisseria lactamica (Nla) 由来のミニマルなI-C型CRISPR-Casシステム (Cascade-Cas3)を利用して,ヒトゲノムの標的領域の大規模欠失を実現した.
  • Nla CRISPR-Cas遺伝子座は,cas1 - cas2  - CRISPRアレイ - cas4 - cas7 - cas8 - cas5 - cas3,で構成されている.Cas3タンパク質が,ヌクレアーゼおよびヘリカーゼとして機能し,Cas1, Cas2およびCas4がスペーサー獲得タンパク質として機能し,Cas5, Cas8およびCas7がCascade複合体として標的を認識する.
  • はじめに,Nla CRISPR-Casシステムが,そのCascadeとcas3 によって大腸菌において強固な細胞免疫を誘導することを確認した.
  • 次に,精製したNla Cascade-Cas3 RNPが,ヒト細胞において高効率で多重化されたゲノム編集を達成することを確認した.
  • さらに,Cascadeが誘導する標的部位において,Nla Cas3が大規模な一方向性の欠損を生じさせることを見出した.
  • その過程で,興味深いことに,これまで見過ごされてきたcas11 遺伝子が,cas8 内部からの原核生物翻訳系によってコードされていることが明らかになり,Cas11タンパク質が,Nla Cascade複合体の不可欠な構成要素であることが明らかになった.
  • さらに,Nla Cas11は,Nla CRISPR-Cas3プラスミドやmRNAを用いた効率的な編集を行うために,Cascade-Cas3 RNPとは別の哺乳類発現カセットを介して供給される必要があることを同定した.
  • このCas11の添加は,コンパクトなI-B型,I-C型,およびI-D型のCRISPR-Casシステムの進化的に多様で互いに直交するCRISPR-Cas3エディターに広く適用可能なアプローチであり,I型CRISPR技術の生体内応用への道を広げる.
 [Cas3関連crisp_bio記事]
  1. [*] 2019-04-10 Cas9はスイスアーミーナイフ、Cascade-Cas3は自走するシュレッダー:タイプ I-E; E. coli由来Cas3と成熟crRNAのRNPを細胞へデリバー.http://crisp-bio.blog.jp/archives/16949725.html
  2. 2019-09-25 ヒト細胞における遺伝子の転写活性化と抑制を、E. coli 由来Cascadeで実現:タイプ I-E, I-B.http://crisp-bio.blog.jp/archives/20067570.html
  3. 2019-11-19 ヒト細胞におけるゲノム編集を、タイプ I CRISPR-CasシステムCascadeで実現.http://crisp-bio.blog.jp/archives/20829994.html
  4. 2019-12-05 タイプI-C/I-F CRISPR-Cas3により微生物ゲノムの大領域削除を実現.http://crisp-bio.blog.jp/archives/21048945.html
  5. 2019-12-07 CRISPR-Cas3を介したエクソン・スキッピングによるDMD遺伝子変異修復. https://crisp-bio.blog.jp/archives/21075878.html
  6. 2022-01-19 ブタ臓器移植に向けて,CRISPR/Cas3による遺伝子編集技術を評価.https://crisp-bio.blog.jp/archives/28428998.html