[出典] PERSPECTIVE "Nervous system consequences of COVID-19" Spudich S (Yale School of Medicine), Nath A (NINDS/NIH). Science 2022-01-20. https://doi.org/10.1126/science.abm2052
 SARS-CoV-2は主として呼吸器系に侵襲するウイルスと考えられているが,世界的に患者数が増加するにつれ,SARS-CoV-2は呼吸器症状を引き起こすだけでなく,腎臓,消化管,心臓,脳などの多臓器に影響を及ぼすことが広く認識されるようになってきた.
 神経系の症状の発症時期は多様である.例えば,脳血管障害は呼吸器症状と同時に,あるいはそれ以前に発症するが,中枢性炎症および末梢神経障害は平均2週間後に発症する.COVID-19の急性期には,錯乱,脳卒中,神経筋障害など多くの合併症が現れる.さらに,集中力の低下,頭痛,感覚障害,うつ病,精神病などの症状が感染後数ヶ月間続くことがあり,この一連の症状は現在ロングコビッド"Long Covid" (新型コロナウイルス感染症後遺症)と呼ばれている.また,ロングコビッド患者の大多数が急性期のCOVID-19の罹患中には入院したことがなく、初期疾患が軽症であり,感染時に軽症であった若年者でもロングCOVIDの神経精神症候群を発症することがある.
 急性-およびロング-COVID-19において神経系が損なわれる現象の病態生理学的メカニズムはよく分かっていないが,非特異的な神経炎症および抗神経自己免疫の制御不全を含む免疫機能障害が主に関与していることが示唆されている.ロングCOVIDの期間よりもさらに時が過ぎてから (初感染から数年後)に,神経学的な影響が出るかどうかは不明である.
 COVID-19には世界中で3.51億人もの人々が罹患しているため,COVIDにおける神経系の合併症は,リハビリテーションや回復,機能の喪失による労働力の途絶など,公衆衛生上の問題を引き起こす.したがって,神経系の疾患の病態生理を理解し,適切な療法を開発することが急務となっている.
 SARS-CoV-2は,鼻腔や嗅覚経路を経由して,あるいは血液脳関門を通過して中枢神経系に侵入すると推測されていたが,神経精神症状を呈する生存患者の脳脊髄液 (CSF)のウイルスRNAは,RT-PCRによってほぼ検出されない.また,急性COVID-19で死亡した患者の脳組織の病理組織学的研究でも,SARS-CoV-2のRNAまたはタンパク質の脳内での検出は稀である.その一方で,CSFと脳組織の解析から,中枢神経系内での免疫活性化と炎症が,急性COVID-19における神経学的疾患をもたらすことが示唆されている.
[crisp_bio注] オリジナルのテキストでは,急性COVID-19とロングコビッドの神経学的症状について,詳細に述べられているが,ここでは,挿入図 (https://www.science.org/cms/10.1126/science.abm2052/asset/88657499-6cc2-4b28-969e-9a15eac4d5bc/assets/graphic/science.abm2052-f1.svg)にまとめられていた内容を以下に引用するに留める.
SARS-COV-2神経病理学的作用の推定と不明点
  • 免疫細胞,サイトカイン,抗体の脳へのトラフィッキングおよびミクログリアの活性化を伴う全般的な神経細胞炎症.
  • SARS-CoV-2に対する抗体や自己抗体を含む抗体産生による神経細胞炎症の悪化.
  • 神経細胞や他の脳細胞に限定的に存在するSARS-CoV-2のスパイクタンパク質やウイルス粒子の作用.
  • 内皮細胞の活性化や血液凝固により損傷を受けた血管に由来する微小出血や脳卒中などの血管機能障害の発生.
  • 神経細胞の傷害に至るメカニズムは不明.
  • 発症に関わる宿主 (ヒト)側の要因 (遺伝,既往症,免疫機能)が不明.
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