[出典] "Improved gRNA secondary structures allow editing of target sites resistant to CRISPR-Cas9 cleavage" Riesenberg S et al. Nat Commun. 2022-01-25. https://doi.org/10.1038/s41467-022-28137-7
 CRISPR-Cas9によるゲノム編集は,ガイドRNA (gRNA)のスペーサー配列に相補的な標的DNA配列の切断から始まが,一部のDNA配列はCRISPR-Cas9による切断に抵抗する.この抵抗の一因がgRNAのミスフォールディングである.
GOLD-gRNA Max Planck Institute for Evolutionary Anthropologyの研究グループからは今回この問題を,定常部に安定性の高いヘアピンを持つgRNAを設計した上で,化学修飾によってさらに安定性を向上させる ‘ゲノム編集最適化ロックデザイン (Genome-editing Optimized Locked Design)-gRNA (GOLD-gRNA)を開発することで解決した [Figure 1 引用右図参照].
 GOLD-gRNAは,Cas9切断抵抗性標的部位のゲノム編集効率を約1000倍(0.08%から80.5%)まで高めた一方で,他の異なる標的部位での編集効率の平均増加率は7.4倍にとどまったが,スペーサー配列の構成に関わらず標的部位の編集小効率を向上させた.

 [参考:これまでのgRNA改変によるゲノム編集効率向上 (原論文 Introductionより抄訳)]
  • gRNAを化学修飾することで,gRNAを細胞内のヌクレアーゼによる分解から保護することで,編集効率の向上されるアプローチがとられてきた.例えば,ホスホロチオエート結合や内部の2'-OMe残基を利用した5′-や3′-末端の保護などである.
  • 「非相同オリゴヌクレオチドによる強化 (non-homologous oligonucleotide enhancement: NOE)」[*1]のアプローチもあった.NOEは,エレクトロポレーションエンハンサーとしてのDNAや,HDRのテンプレートとしてのDNAドナーを使用することによっても実現されてきた.
  • 「ハイブリダイゼーション拡張型A-Tインバージョン ( ‘hybridization extended A-T inversion: HEAT)」sgRNAと呼ばれるものにまとめられるアプローチもあった:crRNAとtracrRNAがハイブリダイズする相補的な配列を長くしてCas9とsgRNAの結合を促進するアプローチ;sgRNAをU6プロモーターからin vivo   で発現させる場合,sgRNAのステムに含まれるTTTTモチーフが転写終結シグナルとして機能することが知られているが,これを,モチーフのT-A塩基対のうち,反対側の塩基を入れ替えることで克服するアプローチ
  • 最適なgRNAをin silicoで設計するためのアルゴリズムも開発されているが,その性能は実用になるレベルには至っていない.
 いずれにしても,このような研究開発にもかかわらず,ゲノム編集の効率は標的部位によって大きく異なり,化学修飾gRNA,NOE, あるいはHEAT sgRNAを用いても,ゲノム編集が困難な標的部位が存在する。
 gRNAのミスフォールディングは,直接的に,あるいはミスフォールディングしたgRNAと活性なgRNAとの間のCas9酵素への結合の競合を通じて,編集効率を低下させる可能性があることが示唆されていた.これと一致するように,50,000種類以上のsgRNAの活性データでトレーニングした機械学習モデル [*2]により,gRNAの折り畳み自由エネルギーが切断効率に強く影響することが明らかにされた.さらに、PAM近位のGCCモチーフが編集を阻害することも報告された [*3]
 sgRNAのバックボーンの塩基置換によって不要な非正規相互作用を断ち切る試みもあるが [*4],RNAフォールディング予測の精度や,新しいgRNAの標的ごとに新しいgRNAバックボーンの塩基置換を設計し検証する必要があることから,このアプローチは一般化されていない.

[*] 
  1. CRISPR関連文献メモ_2016/09/01 [第2項] ゲノムと相同性を持たない合成DNA断片が、遺伝子の破壊効率が改善する.https://crisp-bio.blog.jp/archives/1735567.html
  2. crisp_bio 2019-09-20 DeepHF: SpCas9とその高精度版2種類に最適なgRNAsを設計する深層学習モデルを構築・公開.https://crisp-bio.blog.jp/archives/19998266.html
  3. crisp_bio 2019-01-31 遺伝子ノックアウト効率が低いsgRNAsに特有な配列モチーフを同定.https://crisp-bio.blog.jp/archives/15376031.html
  4. "Internal guide RNA interactions interfere with Cas9-mediated cleavage" Thyme SB, Akhmetova L, Montague T G, Valen E, Schier AF.  Nat Commun. 2016-06-10. https://doi.org/10.1038/ncomms11750