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2023-03-09 PNAS刊行論文としての書誌情報を追記;記事タイトルを「Cas9への変異導入によってDSBからの修復過程の選択を制御しHDRを介した精密ノックイン効率を向上」から「NHEJを抑制しMMEJとHDRを選択すること精密なノックインを実現するCas9改変体を作出 DSBからの修復過程をNHEJからMMEJとHDRに偏らさせるCas9改変体を創製し、精密なノックインを実現」に改訂
2022-03-14 bioRxiv投稿に準拠した初稿
[注] DSB (DNA二本鎖切断); HDR (相同組み換え修復) ; MMEJ (microhomology-mediated end joining)
[出典] "Altered DNA repair pathway engagement by engineered CRSISPR-Cas9 nuclease" Chauhan VP, Sharp PA, Langer R. (bioRxiv 2022-03-10)Proc Natl Acad Sci U S A. 2023-03-07https://doi.org/10.1073/pnas.2300605120
 MITの研究チームが今回,Cas9が誘導するDSBからの非相同末端結合 (NHEJ)修復過程で準ランダム (semirandom) に生じる小さなindelsを抑制し,DSB部位に大小のindelsを誘導するmicrohomology-mediated end-joining (MMEJ) 過程と,テンプレートを介した精密な編集 (以下,精密編集)を実現するHDR過程を選択するCas9の改変体の作出に成功し,vCas9としてPNAS 誌から発表した。

[vCas9の作出]
 研究チームは今回,野生型および変異型のCas9によるDNA二本鎖切断(DSB)からの修復過程の偏りが、DSBが残す切断部位の構造に依存することを示し、HEK293T細胞における予備実験において,NHEJによるindels誘導とHDRによる精密編集とが競合することを示した.また,NHEJよりも大きなindelsを誘導するMMEJを促進することで,HDRを介して編集により大きなテンプレートを利用できると仮定した.
 これまでに開発されたCas9改変体がCas9のDNA基質との界面に位置する残基の変異を有していることに注目し,DNA基質と相互作用する14残基をアラニンに変異させ,それぞれの変異体による編集結果を評価した結果,最も効果的に精密編集頻度を増加させ,同時にindel頻度を減少させる変異体R976A- K1003Aを同定するに至った。しかし、その編集活性は,野生型Cas9に劣っていた.
 研究チームは,R976がDSBからの修復経路と編集活性を調節する鍵となる残基と判断し,アラニンのアルギニンへの置換を評価し,S55R-R976A-K1003A-T1314Rの変異を帯びたCas9改変体が分裂中の細胞でも、非分裂細胞においても,野生型Cas9に近い活性をもたらしつつ,野生型Cas9に優る精度 (オンターゲットとオフターゲットの比率を向上)をもたらすことを確認し、これをvCas9として発表した.

[背景]

 CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集では、非相同末端結合(non-homologous end joining: NHEJ)、比較的短い相同配列を介したマイクロホモロジー媒介末端結合(microhomology-mediated end joining: MMEJ)、および相同組み換え修復(homology-directed repair: HDR)などの細胞内DNA二本鎖切断(DSB)修復経路を利用し、標的遺伝子座を改変する:

  • NHEJは、一般に小さな挿入/欠失変異(indel)を準ランダム(semirandom) に生じさせる。
  • MMEJは、DSB部位を挟む小さな相同配列を利用することで、大小さまざまな配列特異的なインデルを生じさせる。
  • HDRは、DSB部位と再結合する相同DNA修復テンプレートを利用し、精密編集と呼ばれる特定の変異を作り出す。

 これらの修復経路は、多面的な制御によってDSBの修復を競い合うが、NHEJが支配的である。これらの修復経路とそれらが作り出す変異の相対頻度は、標的となる遺伝子座の配列と細胞の状態から予測可能な分布に従う。

 CRISPR-Cas9によるゲノム編集における課題の一つが、特定の修復経路の相対頻度を制御する手段を開発することであり、特に、HDRによる精密編集やMMEJによる特定のインデルがNHEJより高頻度に進行させることを目的としている。これまでに、精密編集の効率を上げるために、テンプレートの設計、テンプレートの安定化、テンプレートの標的部位への局在化、低分子によるNHEJ阻害、細胞同期との同期、精密HDRMMEJを抑制する因子の制御など、さまざまなアプローチが試みられている。これらの戦略は有用ではあるが、細胞状態の操作や外来因子の導入が必要であり、ゲノム編集を実際に利用するには、少なからず、実現不可能な場合がある。

 それが誘導するDSBからの修復経路が特定経路に偏よるCas9ヌクレアーゼが望まれるところであったが、修復経路への関与を変更するための設計戦略が確立されていない。これまでのところ、Cas9は、オンターゲット対オフターゲットのDNA切断特異性の向上または認識するPAM配列の改変のために広範囲な変異導入が設計されてきた。Cas9ヌクレアーゼ設計のためのこれら2つのパラメータ空間は十分に探索されており、興味深いことに、これらのCas9変異体の一部は、そのメカニズムは不明であるが、DSB修復に利用される経路の頻度が、野生型からわずかに異なっている。これらの修復バイアスを駆動する明確なメカニズムがないため、Cas9ヌクレアーゼを設計して修復結果を特異的に変えることができるかどうかは不明であった。

 一方で、DNA切断後の構造が修復機構に影響を与える事象は確立されている。すなわち、Cas9ヌクレアーゼによって生じる末端が平滑な (blunt cut) DSBからはNHEJ過程によるインデルが優先的に生じるが、Cas9ニッカーゼでオフセット・ニックを生成して大きな5'オーバーハングを伴うDSBは、ゲノムのコンテクスト依存で、DNA切除、MMEJHDRを促進する。

 興味深いことに、天然および人工のCas9変異体は、切断後にわずかに異なるDSB構造を生成し、鈍い切断から、時には1bpのオーバーハングを持つ末端 (staggered ends/突出末端/粘着末端) を生成することもある。

 著者らは、Cas9を改変して、より大規模な突出末端のDSBを生成し、それに対応して修復経路の関与を偏らせることができると仮定し、Cas9ヌクレアーゼの修復結果であるDSBの末端の形状を変更するためのこの潜在的な設計パラダイムを探った。 
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