[出典] "Mapping the energetic and allosteric landscapes of protein binding domains" Faure AJ, Domingo J, Schmiedel JM [..] Lehner B. Nature 2022-04-06. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04586-4; [NEWS AND VIEWS] "Democratizing the mapping of gene mutations to protein biophysics" Marks DS, Michnick SW. Nature 2022-04-06. https://doi.org/10.1038/d41586-022-00870-5
 The Barcelona Institute of Science and Technologyの研究グループは今回,double deep PCA (ddPCA)と称する手法を開発し,タンパク質に見られる変異それぞれがタンパク質の形質,安定性と結合親和性,に及ぼす影響を自由エネルギーの変動として捉え,変異の意味を分析した.
[ddPCA]
  • ddPCAのPCAProtein-fragment Complementation Assayに由来し,2種類のタンパク質 (プレイとベイト)の結合に伴って,分割された二断片がプレイとベイトにそれぞれ結合されていたレポーターが復元・活性化する現象を見るアッセイ法である.
  • ddはPCAをベースとする2種類のdeep mutational scanningを組み合わせたことを意味する [NEWS & VIEWSのFig. 1の解説図参照]
  • その一つは従来通りのPCAであり,レポーターとしてジヒドロ葉酸レダクターゼ (dihydrofolate reductase, DHFR)を使用し,プレイとベイトの結合親和性が高いほど,DHFRの復元頻度が高まり,ひいては,細胞の抗生物質に対する耐性が高まり,それに応じた細胞の増植亢進をアッセイする [binding PCA]
  • もう一つは,プレイに導入した変異がプレイの安定性に及ぼす影響を見るためのPCAであり,ベイトが無くDHFRのC末端だけが存在する細胞に,DHFRのN末端を結合したプレイを発現させ,プレイの発現量 (細胞内の存在量)だけに依存する細胞増殖をアッセイするPCA [abundance PCA]である.
 [ddPCAによる変異の評価]
  • ddPCAを利用して,GRB2-associated binding protein 2 (GAB2)のプロリンリッチな直鎖ペプチドと結合するヒト成長因子受容体結合タンパク質2 (GRB2)のC末端SH3ドメインと (GRB2-SH3 ),タンパク質CRIPTのC末端と結合するアダプタータンパク質PSD95 (DLG4)の第3PDZドメイン (PSD95-PDZ3)の2組について,変異が安定性と結合親和性に及ぼす影響を,細胞増殖のデータから探った.
  • それぞれの変異体がアミノ酸配列あたり1つか2つの変異を含むように設定することで,単一変異そしてまたは2重変異がアッセイ中の細胞増殖に及ぼす影響をアッセイし,得られた実験データに適合する熱力学モデルをニューラルネットワークをベースとして構築し,各変異がタンパク質の安定性と結合親和性それぞれ関わる自由エネルギーにもたらす変動を推定した.
  • こうして推定した自由エネルギーの変動は,in vitro 測定から実験的に求めた自由エネルギーの変動と,驚くほど良く一致した.
 [アロステリック変異の同定]
  • プレイとベイトの結合界面に位置するアミノ酸残基における変異に加えて,結合界面以外の部位に存在する残基についても,結合親和性自由エネルギーを変動させる変異が濃縮されているかを検証した.
  • アロステリック変異を,結合界面の変異の平均絶対結合自由エネルギー変化と少なくとも同じ大きさの効果を持つものと定義したところ,アロステリック変異はGRB2-SH3では24の異なる残基で合計55変異(コアに33; 表面に22)が,PSD95-PDZ3では49残基で合計152変異 (コアに83; 表面に69)という結果となった.
  • すなわち,アロステリック変異がタンパク質のコアに多く存在し,また,溶媒にアクセスしやすい表面にも存在することが示唆された [Fig. 6参照].
  • また,直接相互作用している界面以外の部位の残基に発生する多くの変異が,タンパク質の安定性だけでなく,結合親和性も変化させることを示唆する分析結果も得た.
 研究グループが今回報告したスクリーニング法は,タンパク質の形質 (安定性と結合親和性)に及ぼす突然変異の影響を決定するために現在使用されている技術よりもはるかにシンプルである.また,使用される手法や資源は、ほとんどの大学や企業の研究所で利用できるものであり,ddPCAを介したスクリーニングは広く利用されることになろう.