[出典] "Targeted A-to-G base editing in human mitochondrial DNA with programmable deaminases" Cho SI [..] Kim JS. Cell 2022-04-25. https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.03.039; NEWS "A new era of mitochondrial genome editing has begun" Institute for Basic Science. 2022-04-16
[著者所属] Institute for Basic Science (Daejeon), Seoul National University
 Jin-Soo Kimらは,DbCBE [*1,2]によるマウスミトコンドリアDNAnのC-to-T変換を報告していたが[*3],今回,ヒトのミトコンドリアDNA (mtDNA)を対象とするA-to-G塩基変換を実現するエディターを開発し,TALED (transcription activator-like effector-linked deaminases)として発表した.
 ミトコンドリアには90種類を超える病因変異が知られているが,ミトコンドリアへガイドRNAをデリバリーすることができないため,これまでのCRISPR-Casシステムによる遺伝子修復が実現していなかった.
 その中で,2020年と2022年に,David R. Liuらが,"dCas9/Cas9nを必要としない塩基エディター 'DdCBE'の開発によりDNAのC•G-to-T•A変換" [*1]と”CRISPRエフェクターに依存しない塩基エディターDdCBEのミトコンドリアと核DNAに対する活性を向上し標的可能領域をTCから非TCサイトにまで拡大” [*1, 2]を実現していたが,A-to-G変換は実現されていなかった.
 今回開発されたTALEDは,TALE (transcription activator-like effector),アデニンデアミナーゼTadA8e [*4],およびDddAtox [*2]の3要素で構成されている.TALEはDNA配列を標的し,TadA8eは,LiuとDoudnaらが導出したA-to-G変換を促進するアデニンデアミナーゼであり,DddAtoxはLiuらが採用したB. cenocepacia由来のシチジンデアミナーゼ毒素であるが分割することで無毒化され (以下,sDddAtox),TadA8eのDNAヘのアクセスを促進する.
 TALEDは,これまでssDNA特異的に作用するTadA8eが,dsDNAにも作用するようにしたことで成立した.著者らは,DddAtoxによってdsDNAを一過性に巻き戻すことで,dsDNAのストランドへのアクセスを可能にし,この間に,超速効性酵素であるTadA8eが必要な編集を実現すると,推定している.

[実証実験] 
  • TALEDによって特定のmtDNA編集を含む単一細胞由来のクローンを作成した.
  • TALEDは,ヒト細胞において,様々なミトコンドリア遺伝子の合計17の標的部位で,最大49%の編集頻度でA-to-G変換を触媒した.
  • TALEDは,細胞毒性もmtDNAの不安定化も伴わなかった.
  • TALEDは,核DNAにオフターゲット編集を引き起こすことがなく,mtDNAにおけるオフターゲット編集もほとんど伴わなかった.
 研究グループは,植物の光合成に不可欠な遺伝子をコードする葉緑体DNAのA-to-G塩基編集に適したTALEDの開発も進めている.また今後,胚, 胎児, 新生児, および成人患者におけるmtDNAの病因変異修正を目指して,TALEDの編集効率と特異性をさらに高めていく.
 
[TALEDの構成など詳細]
  • TALEとTad8Are (以下,AD)の融合は,0.7% to 1.2%と低効率であるが有意なmtDNAのA-to-G変換を可能にした.この効率向上を目指して,DdCBE (TALEリピート+sDddAtox+UGIとUGI-sDddAtox-TALEリピートのペア)のUGIの一方をADに置き換えた(TALEリピート+sDddAtox+ADとUGI+sDddAtox+TALEリピート)"split TALED (sTALED) with UGI"を作出した.
    C-to-T変換効率14%とともに,DdCBEでは実現されなかったA-to-G変換を18%の効率で実現した. 
  • 著者らは,"sTALED with UGI"に対してUGIフリーのsTALED (TALEリピート+sDddAtox+ADとsDddAtox+TALEリピート)によって,C-to-T変換を伴わずA-to-G変換をより高い効率で実現可能なことを示した.
  • 著者らはさらに,無毒化した全長のDddAtox (E1347A DddAtox)を組み合わせcis に作用する単量体TALED (mTALED: TALEリピート+AD+DddAtox (R1347A)) とtransに作用させる二量体TALED (dTALED: TALEリピート+DddAtox (R1347A)とAD+TALEリピートのペア)を作出し,それらによるA-to-Gの変換を実証した.
  • mTALEDとdTALEDはともに,TALEに依存しないと思われるmtDNA D-ループにオフターゲット編集を誘発するがこれは低頻度であり,一定の特異性を示した.sDddAtoxを採用したsTALEDの場合完全長変異体ではなくスプリットDddAtoxを含むsTALEは、同じTALEアレイからなるmTALEDやdTALEDより一般的に効率が高かったが,特異性は劣った.
  • mTALEDをコードする遺伝子は,sTALEDやdTALED,DdCBEをコードする遺伝子 (5.3 kbp以上)と異なり,サイズが小さく ( 3.1∼3.5 kbp),AAVによりデリバリーできることから,in vivo  遺伝子導入において大きな利点がある.さらに,TALEタンパク質が1つのmTALEDは,TALEタンパク質が2つのsTALEDやdTALEDよりも柔軟性があり,その結合部位には通常5′と3′の両末端にチミンが存在するが,3′末端のチミンは必須では無いことも,柔軟性を高める.
[*] 参考crisp_bio記事および論文
  1. ミトコンドリアDNA編集関連:2022-04-10 CRISPRエフェクターに依存しない塩基エディターDdCBEのミトコンドリアと核DNAに対する活性を向上し標的可能領域を拡大した.; "CRISPR-free base editors with enhanced activity and expanded targeting scope in mitochondrial and nuclear DNA" Mok BY [..] Liu DR. Nat Biotechnol 2022-04-04
  2. ミトコンドリアDNA編集関連:2020-07-11 シチジンデアミナーゼをTALEアレイに組み合わせてミトコンドリアDNAの塩基エディター 'DdCBE'を開発; "A bacterial cytidine deaminase toxin enables CRISPR-free mitochondrial base editing" Mok BY, de Moraes MH [..] Joseph D. Mougous JD, Liu DR. Nature 2020-07-08
  3. 2021-02-23 DdCBEsによるマウスin vivoでのmtDNA編集を評価; “Mitochondrial DNA editing in mice with DddA-TALE fusion deaminases” Lee H, Lee S [..] Kim JS. Nat Commun. 2021-02-19
  4. TadA-8e (ABE8e)紹介crisp_bio記事:2020-03-18 Liu DRとDoudna JAら、ABE7.10をABE8eへと進化; "Phage-assisted evolution of an adenine base editor with improved Cas domain compatibility and activity" Richter MF, Zhao KT [..] Doudna JA, Liu DR. Nat Biotechnol 2020-03-16