[出典] "Genome-wide CRISPR screens using isogenic cells reveal vulnerabilities conferred by loss of tumor suppressors" Feng X, Tang M, Dede M [..] Hart T, Chen J. Sci Adv 2022-05-13. https://doi.org/10.1126/sciadv.abm6638 [著者所属] UTEX MD Anderson Cancer Center, UTEX Health Science Center at Houston; [データとコードの入手先]
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.19398332.v1
[背景]
がんは,ある意味で遺伝病である.なぜなら,腫瘍の形成が進む間に,複数の遺伝子に変異が蓄積されるからである.その中でも,がん遺伝子 (ドライバー・オンコジーン)とがん抑制遺伝子 (Tumor Suppression Gene: TSG)の変異が決定的な役割を果たしている.機能獲得型変異受容体チロシンキナーゼなど,多くの既知のドライバーオンコジーンは"ドラッガブル/druggable"であり,それぞれを特異的に阻害する薬剤が開発され,耐性発生の課題を伴ってはいるが,臨床応用されている.これに対して,腫瘍細胞におけるがん抑制遺伝子の産物 (がん抑制因子)は,欠失、機能喪失変異,エピジェネティックなサイレンシング,翻訳後修飾などによって機能を喪失しているために,腫瘍細胞におけるがん抑制因子の高頻度な変異を利用して正常細胞は残して腫瘍細胞を特異的に殺す戦略は,新しい抗がん剤開発にとって依然として挑戦的な課題である.
一方で,合成致死 (synthetic lethality: SL)の概念が,特定のがん抑制因子を欠損しているがんを標的とする理想的な戦略を提供する.BRCA1/2の変異を帯びた腫瘍細胞に対するPARPi (PARP阻害剤)の有効性が,その典型例であり,最近の研究では,ARID1A/ARID1B, ARID1A/EZH2, PTEN/CHD1, PTEN/SMARCA4 など,いくつかのSL遺伝子相互作用が特定されてきた.しかし,SL相互作用の同定はまだ限定的であり,また,近年,広範ながん細胞を対象とするCRISPR-Cas9による大規模な機能喪失スクリーニングが行われたが [*1,*2],特定のTSG欠損に関連する腫瘍細胞の脆弱性はほとんど特定されなかった.
著者らは,
特定のTSGと特定の遺伝子の間のSL相互作用が,腫瘍細胞集団の不均一性によって,見かけ上希釈されると見て,HEK293A細胞をプラットフォームとして,CRISPR-Cas9を利用して遺伝的背景が同質な一連のTSG KO細胞のパネルを作製し,一連のTSGs (12種類のTSGs; Fig. 1引用右図 A 参照)と他のタンパク質をコードする遺伝子の間の相互作用を包括的に捉えるスクリーニングを行った.
特定のTSGと特定の遺伝子の間のSL相互作用が,腫瘍細胞集団の不均一性によって,見かけ上希釈されると見て,HEK293A細胞をプラットフォームとして,CRISPR-Cas9を利用して遺伝的背景が同質な一連のTSG KO細胞のパネルを作製し,一連のTSGs (12種類のTSGs; Fig. 1引用右図 A 参照)と他のタンパク質をコードする遺伝子の間の相互作用を包括的に捉えるスクリーニングを行った.[成果]
- HEK293A細胞において,一連のTSG KOに共通する脆弱性と個々のTSG KOに特有な脆弱性が存在することが明らかになった.その結果,必須パラログの存在が,SLを引き起こす重要なメカニズムの一つであることが判明した.
- 既知のSL相互作用とともに,新規なSL相互作用を同定した.
- TSC2 と STK11 ,KDM5C と BAP1 ,SMARCA4 または ARID1A とPTEN のSL関係のように,あるTSGが他の TSG欠損を持つがんの潜在的ながん治療標的となり得ることを明らかにした.
このデータセットが,TSGの細胞機能だけでなく,TSGの欠損を治療のターゲットにする戦略の実現に貢献することを期待する.
[限界]
- 単一遺伝子を標的とするCRISPR KO法を用いたスクリーニングでは,極めて類似した機能を持つパラログをすべて同時に標的にすることは不可能であり,あるパラログAが別のパラログBの欠損を機能的に相補する可能性があり,その結果、これらのパラログのSL相互作用は見えてこないことになる.
- 腫瘍細胞におけるほとんどのTSGは,CRISPR-Cas9にて欠損させた細胞のように単純なタンパク質の欠損だけでなく,変異タンパク質が発現し続け,例レベルではあるが活性が維持される可能性,時には新たな活性を示す可能性もある.今回の実験でも,TSG本来の機能が残存している可能性がある (KOに至らずノックダウンの状態にとどまっている可能性がある)
- HEK293細胞で同定したSL関係と,DepMapポータルサイトから得られるSL関係との一致は,限定的であり,今回得られた結果を個々の腫瘍細胞に展開するにあたっては,組織特異的な遺伝的依存性,同じ組織由来の分子的特徴を共有する細胞株集団のサイズ,各細胞株における固有の遺伝的背景などを考慮する必要がある.また,in vitroでの環境と生体内での環境の相違も考慮する必要がある.
[*] 引用crisp_bio記事
- 2018-12-22 CRISPR-Cas9スクリーニングを使って、癌治療標的候補を仕分けする.
- 2017-11-30 CRISPR必須遺伝子スクリーニングにおける多コピー遺伝子の偽陽性を判別可能に.
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