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[出典] NEWS "Coronavirus ‘ghosts’ found lingering in the gut" Ledford H. (Science writer). Nature 2022-05-11. https://doi.org/10.1038/d41586-022-01280-3

 スタンフォード大学のAmi S. Bhattらは [1],COVID-19のパンデミックの初期に,感染者の嘔吐と下痢が広く報告されたことから,COVID-19感染者の便の分析を始め,COVID-19感染者の腸の異常に気付いたインスブルック医科大学のTimon E. AdolphとHerbert Tilgらオーストリアの研究グループは [2],消化管組織の生検標本の分析を始めた.この2つの研究グループは2022年4月になって,互いに独立に,SARS-CoV-2の断片が,感染後数ヵ月にわたって腸内に留まる可能性を示唆する結果を発表した.Bhattら研究者は,SARS-CoV-2断片とlong COVID [*]の因果関係の解明はこれらかであるとしつつ,Bhattらは,SARS-CoV-2の断片を,ウイルスの‘ゴースト (ghosts)’と呼んだ.
 Long COVIDは,SARS-CoV-2感染後12週間以上経過しても残っている症状として定義されることが多い.Long COVIDの症状として200以上知られており,また,軽症から重篤まで,重症度も多様である.その原因については諸説あり,望ましくない免疫反応,微小な血栓,ウイルスを維持するリザーバー[3]の存在 などが挙げられているが,多くの研究者は,long COVIDはこれらの要因が複合した結果と見ている.
 SARS-CoV-2が腸内で維持される可能性は,2021年にRockefeller UniversityやIcahn School of Medicine at Mount Sinaの研究グループが,Nature 誌にて報告 [4]していた.平均4ヵ月前にCOVID-19と診断された人々から採取した胃腸組織から, ウイルスの核酸とタンパク質を発見し,また、メモリーB細胞が産生する抗体が進化し続け,初感染から6カ月経過した時点でも,B細胞がSARS-CoV-2が産生する分子に反応し続けていることが示唆されていた.
  • [4] "Evolution of antibody immunity to SARS-CoV-2" Gaebler C, Wang Z, Lorenzi JCC, Muecksch F, Finkin S, Tokuyama M, Cho A, Jankovic M, Schaefer-Babajew D, Oliveira TY, Cipolla M [..] Mehandru S, Bieniasz PD, Caskey M, Nussenzweig MC. Nature 2021-01-18. https://doi.org/10.1038/s41586-021-03207-w
 今回,Bhattらは,軽症または中等症の患者から,感染から7ヵ月後,呼吸器の症状が消えた後も,便中にウイルスRNAを排出し続けている例を見出した.また,オーストリアの研究グループは,軽症者の46人のうち32人が,急性感染から〜7カ月後に腸内にウイルス由来分子を保持していることを見出し,また,この32人のうち約3分の2がlong COVIDの症状を示すことを見出した.ただし, 46人全員が自己免疫疾患の一種である炎症性腸疾患を患っていることから,研究グループは,ウイルス由来分子の存在が,必ずしも'活性な'ウイルスの存在を意味せず,また,それらは必ずしもlong COVIDの原因ではないとしている.
 
 腸内以外の部位にSARS-CoV-2のリザーバーが存在することを示唆するプレプリントも投稿されている.米国NIH, メリーランド大学などの研究グループは [5],重度のCOVID-19患者44人の剖検サンプル (心臓,眼,脳などを含む各組織)において,感染から230日後まで,ウイルスRNAを検出した.また,シンガポールのA*STAR分子細胞生物学研究所にLong Covid Autonomous Communities Together Spainが加わった研究グループは [6],軽症のCOVID-19後にlong COVIDを呈した2名の虫垂と乳房から, ウイルスの複製が進行していることを示唆するウイルスの一本鎖マイナス鎖RNAを検出した.A*STARのJoe Yeongは,ウイルス が,体内のさまざまな組織に存在するマクロファージに浸潤・潜伏していると推測しているが,その裏付けにはさらなる研究が必要である.
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