2022-08-24 初稿で取り上げた韓国の研究チームからのプレプリントがGEN Biotechnology 誌から刊行されたことからその書誌情報と概要を追記:
ほとんどの作物のビタミンD3の濃度が極めて低いため、人の食事に十分なビタミンD3濃度を帯びた作物の育種が模索されてきた。韓国の産学の研究チームが今回、トマト (Solanum lycopersicum L.)にCRISPR-Cas9遺伝子編集システムを適用して、ヒトの7DHCレダクターゼ (DHCR7) 遺伝子のホモログである2つのDWARF5 遺伝子 (SIDWF5A とSIDWF5B )のうち、
転写レベルがSIDWF5B の2~5倍のSIDWF5A 遺伝子機能喪失変異を誘導するアプローチを試みた。
[関連crisp_bio記事] [20211217更新] 日本で初のゲノム編集食品 (トマト)流通へ.
2022-05-28 初稿
[出典] NEWS "Scientists turn tomatoes into a rich source for vitamin D" Stokstad E. Science 2022-05-23. https://doi.org/10.1126/science.add1401
論文 "Metabolic Engineering to Enhance Provitamin D3 Accumulation in Edible Tomatoes" Choi S, You MK Jeon YA, [..] Choe S. GEN Biotechnology 2023-06-19. https://doi.org/10.1089/genbio.2023.0015 [著者所属] CRISPR Genome Editing Institute (G+FLAS Life Sciences), Seoul National U, Incheon National U.
NEWS "Taste the Sun: Gene Editing Produces Vitamin D-Enhanced Tomatoes" Lin F. GEN Biotechnology 2023-08-17. http://doi.org/10.1089/genbio.2023.29107.fli
ほとんどの作物のビタミンD3の濃度が極めて低いため、人の食事に十分なビタミンD3濃度を帯びた作物の育種が模索されてきた。韓国の産学の研究チームが今回、トマト (Solanum lycopersicum L.)にCRISPR-Cas9遺伝子編集システムを適用して、ヒトの7DHCレダクターゼ (DHCR7) 遺伝子のホモログである2つのDWARF5 遺伝子 (SIDWF5A とSIDWF5B )のうち、
転写レベルがSIDWF5B の2~5倍のSIDWF5A 遺伝子機能喪失変異を誘導するアプローチを試みた。 SIDWF5A 遺伝子をノックアウトした系統は、形の上で野生型と判別できないが、赤い果実が6μg/g乾燥重量 (DW) という高いプロビタミンD3 (ProVitD3) のレベルを蓄積することを見出した [FIG 3. 引用右図参照]。
ビタミンDの1日の推奨摂取量は20μg(800IU)であることから、150g (乾燥重量15gに相当)の完熟生トマトを1個摂取することで、世界中で蔓延しているビタミンD欠乏症を大幅に緩和できる可能性がある。
[注] ProVitD3は、7-デヒドロコレステロール (7DHC) としても知られており、DHCR7を介してコレステロールに変換される。
[注] ProVitD3は、7-デヒドロコレステロール (7DHC) としても知られており、DHCR7を介してコレステロールに変換される。
[関連crisp_bio記事] [20211217更新] 日本で初のゲノム編集食品 (トマト)流通へ.
2022-05-28 初稿
[出典] NEWS "Scientists turn tomatoes into a rich source for vitamin D" Stokstad E. Science 2022-05-23. https://doi.org/10.1126/science.add1401
CRISPR-Cas9による単一遺伝子のノックアウトを介して,動物性食品には含まれるが植物性食品にはほとんど含まれていないビタミンDの前駆体分子を蓄えることが可能なトマトが実現したことが,国際共同研究チーム[*1]と韓国の研究チーム[*2]がそれぞれ独立な論文と投稿で明らかになった.これで,十分紫外線に当たる機会が不足がちな地域の住民や菜食主義者も食品からビタミンDを補給できる未来が拓けそうだ.
トマトやナス科の植物は通常,ビタミンDの前駆体であるプロビタミンD3を生成するが,7-DR1と7-DR2という2種類の遺伝子がコードする酵素を使って他の化合物に変換してしまう.研究チームは、これらの遺伝子のいずれかをノックアウトすることで,植物にプロビタミンD3が蓄積され,太陽光を介して人間が利用できる第二の前駆体であるプレビタミンD3に変換されると想定し,事実,国際共同研究チームは7-DR2のノックアウト,韓国研究チームは7-DR1をノックアウトすることで,トマトの成長を損なうことなく,プロビタミンDをトマトに蓄積可能なことを示した.
両チームとも今後,トマトに含まれるプレビタミンD3が体内に吸収されて,ビタミンDに変換されること,および,さまざまなストレス下で遺伝子編集トマトが成長できることを野外実験で検証することを予定しているが,消費者の受容性に留意する必要もある.
[*1] CRISPR-Cas9遺伝子ノックアウトにより,プロビタミンDを強化したトマトを作出
[論文] "Biofortified tomatoes provide a new route to vitamin D sufficiency" Li J [..] Martin C. Nat Plants 2022-05-23. https://doi.org/10.1038/s41477-022-01154-6 [著者所属] John Innes Centre (Norwich Research Park), University of Glasgow, Institute of Sciences of Food Production (Italy), University of Concepción (Chile), CREA—Research Centre for Genomics and Bioinformatics (Italy), University of Camagüey (Cuba)
[NEWS] "Tomatoes supply the ‘sunshine vitamin’" Van Der Straeten D, Strobbe S. Nat Plants 2022-05-23 https://doi.org/10.1038/s41477-022-01158-2 [著者所属] Ghent University
[参考] Fig. 1 ビタミンD代謝概観:植物での生合成, ヒト体内での変換,および関連する食物源など.
ビタミンDの不足は,がんや神経認知機能の低下,全死亡のリスクを高める要因となる.一般の食品のほとんどは,ほとんどビタミンDを含んでおらず,植物はビタミンDの供給源足り得ていない.
英国をはじめとする国際研究グループは,
トマトのプロビタミンD3の蓄積をCRISPR-Cas9ゲノム編集によって制御し,植物ステロール生合成の重複部分を改変することで,ビタミンD3強化強化食品を提供することが可能であり,また,廃棄物からのサプリメント生産の可能であることを示した.
トマトのプロビタミンD3の蓄積をCRISPR-Cas9ゲノム編集によって制御し,植物ステロール生合成の重複部分を改変することで,ビタミンD3強化強化食品を提供することが可能であり,また,廃棄物からのサプリメント生産の可能であることを示した.[参考図] Fig. 1引用右図参照: b CRISPR-Cas9 KOの標的遺伝子Sl7-DR2 (7-デヒドロコレステロールレダクターゼ/7-Dehydrocholesterol reductase) の構造と変異株の配列
[*2]トマトにおけるプロビタミンD3生合成を実現した代謝工学
[注] 遺伝子名は7-DR1ではなく,SlDWF5-1が使われている
[論文] "Metabolic engineering for provitamin D3 biosynthesis in tomato" Choe S, Choi S, Kim J, Park J, Kim J. Research Square 2022-05-28 (Under Review). https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1403571/v1 [著者所属] Seoul National University, G+FLASH Life Sciences, Naturegenic Inc.
ほとんどの天然の植物に存在するビタミンD3のレベルは,ヒトが食事から十分なビタミンD3を摂取するには低すぎることから,ビタミンD3が豊富な作物育種の長年の目標の一つである.
韓国の研究グループは今回,トマトゲノムのCRISPR-Cas9編集により,トマト果実中のプロビタミンD3濃度を乾燥重量100gあたり最大1mgまで増加させた.このプロビタミンD3トマトを使用することで,世界中に蔓延するビタミンD不足を改善できる可能性がある.[参考図] Extended Fig.1 引用右図参照:シロイヌナズナにてステロール 7 還元酵素/sterol 7-reductaseをコードするDWARD5 遺伝子と相同な遺伝子 (レタスではLsDWF5 , トマトではSlDWF5-1 )をCRISPR-Cas9でノックアウトすることで,葉や果実におけるプロビタミンD3の蓄積を確認した.
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