[注] dCas12a [LbdCas12a (D832A)]; ABE8e [crisp_bio 2020-03-18 Liu DRとDoudna JAら、ABE7.10をABE8eへと進化]
2022-08-08 オリジナル論文のハイライト記事の書誌情報を追記: SPOTLIGHT "A multifaceted signal recorder of cellular experiences using Cas12a base-editing" Zhang P, Chan MM. Trends Biotechnol 2022-08-03. https://doi.org/10.1016/j.tibtech.2022.07.009 [著者所属] Princeton University.
2022-06-09 初稿 
[出典] "Scalable biological signal recording in mammalian cells using Cas12a base editors" Kempton HR, Love KS, Guo LY, Qi LS. Nat Chem Biol. 2022-05-30. https://doi.org/10.1038/s41589-022-01034-2 [著者所属] Stanford U.
 生体内で細胞が受信する一時的かつ多様なシグナルを同時進行で記録し永久的に保持するシステムは,生物学的プロセスの基礎研究から次世代の細胞療法の開発のツールとして,計り知れない可能性を帯びている.CRISPR-Cas9システムの登場によって,生体シグナルを記録するプラットフォームの開発が進んできたが,哺乳類に向けた記録システムには,単一シグナルの記録を超えたスケールアップが課題であった.
 Kemptonらは今回,記録システム開発にあたり,Cas9と異なり,それ自身がcrRNA (ガイドRNA)を生成する能力も備えているCas12aに注目した.この特性ゆえに,Cas12a-crRNAシステムにおいては,多彩な誘導性ポリメラーゼII (inducible polymerase II, Polii)プロモーターによってcrRNAの発現を制御するだけで,関心のあるシグナルと一定のガイドRNAの発現を紐づけることが可能になる.研究チームはさらに,Cas12aの切断活性に替えて,dCas12aをベースとする塩基エディターを介した1塩基変換としてシグナルを記録していく手法を選択した.一方で,dCas12a (Cpf1)をベースとする塩基エディター [*1]には効率が低いことが課題になっていた.
 研究チームは今回,塩基エディタの一種でありA-to-G/T-to-C変換を実現するABEのシリーズの中でも効率を亢進させた進化版ABE8eに,Lachnospiraceae bacterium Cas12a (LbdCas12a)の高性能版であるhyperCas12a [*2]のニッカーゼ版(以下,dCas12aと表記)を組み合わせることで,哺乳類を対象として,効率的かつマルチシグナルに適応可能な生体シグナル記録システムを実現した.
 研究チームは,この記録システムが,様々な生物学的なシグナルにプラグアンドプレイで対応可能であり,また,時間的に限定された生物学的事象やキメラ抗原受容体T細胞の抗原への暴露などを記録するといったより高度なアプリケーションに展開可能であることを示した.また,Cas12aのcrRNAプロセッシングの特性を活かして,crRNAに加えてエフェクターをコードしたコンストラクトを用意することで,シグナルに応答して,その記録と同時にエフェクターを発現させることも炎症性シグナルを例として可能なことを示した (dual-function effector and recorder cells).
 システムの開発と検証には主として記憶媒体として外因性GFPが利用されていたが,内因性のセーフハーバー遺伝子座を利用して,最大4種類のシグナルを同時並行で効率的に記録可能なことも示した.
 この研究は、様々な生物学的アプリケーションのために、関心のあるシグナルをスケーラブルに記録するための汎用的なプラットフォームを提供するものである.

[注] 細胞内記録の実証例:細胞内の低酸素応答, 
APIシグナル伝達, cAMPの上昇;細胞間相互作用 (CD19 CAR-T細胞とCD19発現K562細胞)

[Cas12a-crRNAシステム活用関連crisp_bio記事]
  1. [*] CRISPRメモ_2018/03/21 [第1項] Cpf1とシチジンデアミナーゼの融合による1塩基編集 (BE).
  2. [*]crisp_bio 2022-04-18 効率の良い生体内多重遺伝子制御 (CRISPRa/i)を実現するハイパーCas12aを導出
  3. CRISPRメモ_2020/02/08 [第1項]  分割したdCas12aに, エフェクター, crRNAおよび抗-CRISPRを組合わせることで、多入力・多出力遺伝子回路を構築.
  4. crisp_bio 2019-08-13 SiT-Cas12a: 単一mRNA (Single-Transcript)にコードしたCas12aとCRISPRアレイよる多重ゲノム工学