2023-04-30 Bio-protocol 誌掲載プロトコル論文の書誌情報を追記
"Application of a Spacer-nick Gene-targeting Approach to Repair Disease-causing Mutations with Increased Safety" Tran NT, Lebedin M, Danner E, Kühn R, Rajewsky K, Chu VT. Bio Protoc 2023-04-20. https://doi.org/10.21769/BioProtoc.4661
2022-06-11 Science Advances 論文に準拠した初稿
[出典] "Precise CRISPR-Cas–mediated gene repair with minimal off-target and unintended on-target mutations in human hematopoietic stem cells" Tran NT, Danner E, Li X [..] Rajewsky K, Chu VT. Sci Adv 2022-06-03. https://doi.org/10.1126/sciadv.abm9106 [著者所属] Max Delbrück Center for Molecular Medicine in the Helmholtz Association, Humboldt-Universität zu Berlin

 CRISPR-Cas9を用いた遺伝子修正は,単一遺伝子疾患の治療法として期待を集めているが,未だ目的外のゲノム改変が臨床応用への大きな課題になっている.Tanらは今回,Cas9nと一対のsgRNAを比較的長い間隔 (200~350bp)に配置するスペーサー・ニック (spacer-nick)の手法 (以下,Cas9n-sn)を開発して,これまでになく正確で安全な遺伝子修正が可能なことを示した.AAV6を介したドナーテンプレートと併用することで,ヒトHSPCsおよびT細胞において,意図しないオンターゲット変異の誘導やオフターゲットの編集を最小限に抑えつつ,効率的な遺伝子修正を実現した [Fig. 1 -  A, Bと,Fig. 1 - C, D, E, F, G, Hから引用した左下図と右下図を参照].
Precise repair A,B     Precise repair C-H 
 これまでの報告にあったように,従来のCRISPR-Cas9システムは今回も,頻繁に望ましくない遺伝子改変やオフターゲット変異を誘発した.Cas9n-snの結果は,PAMの上流側(PAM-out)を標的とし短い間隔 (38〜68bp)でsgRNAのペアを配置することで,Cas9nを介して,オフターゲット効果を強く低減した先行研究 (以下,ダブル・ニック)の結果と一致した.
 ダブル・ニックのアプローチは効率的な相同組み換え修復(HDR)を誘導し,オフターゲット編集を防止するが,ゲノムDNA鎖上の2ヶ所誘導されるsingle-stranded breaks (SSBs)がNHEJ経路を介して,オンターゲットへの望ましくないインデル変異や機能を失った遺伝子産物を誘発する [*1]可能性がある. 
 オンターゲット・インデルを回避する安全な遺伝子修正法は,HDR率を維持しつつ,意図しないオンターゲットDSBを最小化する必要があり,これまでにヒトiPS細胞や細胞株では、in trans paired nicking [*2]やtandem paired nicking [*3]のアプローチでこれが達成されていたが,今回,ヒトHSPCではその効率が低く,HSPCで機能するDNAニックの修復メカニズムがヒトiPSCや細胞株と異なることが示唆された.
 今回,間隔の広いsgRNAsペアを利用するスペーサー・ニックのアプローチによって,ヒトHSPCにおいてもダブル・ニックで観察された標的上のDSBとインデルを大幅に抑制することに成功した.2つのsgRNA (すなわちSSB)の距離が離れているため,SSBは主に塩基除去修復経路によって修復され,NHEJ経路修復に由来するインデルが抑制され,また,AAV6ドナーテンプレートが存在する場合,遠位のSSBは別のHDR経路によって修復される可能性がある.しかし,スペーサー・ニックで活性化されるDNA修復経路の正確なメカニズムの解明はこれからである.
 スペーサー・ニックを用いて安全かつ効率的にHDRを誘導するには,間隔が200から350 bpのPAM-out sgRNAsの活性なペアを見つけることが重要である.著者らは,標的遺伝子座の2つの部位を囲むPAM-out sgRNAsのプールを設計し,それぞれ編集効率が高く(80%以上),かつ同レベルのsgRNAのペアを選択した.
 Cas9nは,PAM-out sgRNAペアとの組み合わせで,標的DNA鎖の反対鎖上の2ヶ所に,200~350bpの間隔のニックを生成する.この2つのニックの間の配列が,ミニ相同配列 (mini-homologous sequence)として機能し,DNAドナーテンプレートが存在する場合に部分的な相同組換えを引き起こす可能性がある.このミニ相同配列の長さを短くし,部分的な相同組換えを避けるために、各ニック部位の外側に少なくとも800 bpの5′および3′HAを持つDNAドナーテンプレートを作成した.さらに,ミニ相同配列の内側のコーディング配列へのサイレント変異の導入 (HBBとELANE     )や,配列の部分的欠失 (IL7RとPRF1   )といったDNAドナーテンプレート修飾を施した.
 実証実験として,スペーサー・ニック法を利用して,HBB、ELANE、IL7R、PRF1     遺伝子に生じた変異のホットスポットを修復可能とする普遍的な遺伝子修正システムを開発・テストし,これらの遺伝子座において,ヒトHSPCsとT細胞で20〜50%の遺伝子修正効率を達成した.また,オフターゲット編集を詳細に解析し,これまでのCRISPR-Cas9で高頻度に出現する意図しない遺伝子修正がHSPCでは著しく減少するか存在しないことを確認できた.

 [関連crisp_bio記録]