[出典] "Large-scale genome editing based on high-capacity adenovectors and CRISPR-Cas9 nucleases rescues full-length dystrophin synthesis in DMD muscle cells" Tasca F [..]  Gonçalves MAFV. Nucleic Acids Res 2022-07-01. https://doi.org/10.1093/nar/gkac567 [著者所属] Leiden University Medical Center. 
[背景]
  • 第3世代アデノウイルスベクターとも呼ばれる大容量アデノウイルスベクター (以下, adenovector particles, AdVP)は,(i)ウイルス遺伝子の欠如,(ii)最大36 kbのパッケージング容量,(iii)高い安定性,および (iv) 細胞屈性の付与が容易,(v)分裂中細胞と非分裂細胞の双方への効率的導入,といった特徴を備えている.
  • CRISPR/Cas9を介したDNA二本鎖切断 (DSB)とDSB修復用ドナーテンプレートを利用した遺伝子ターゲッティングの手法としてこれまで,HR,MMEJ,に加えてHMEJ (Homology-mediated end joining)の経路の利用が提案されてきている [crisp_bio 2021-02-18参照*].
    [*] 引用crisp_bio記事
    2021-02-18 CRISPR-Cas9によるhomology-mediated end joiningを介したウシ受精卵における効率的遺伝子ノックイン https://crisp-bio.blog.jp/archives/25620030.html 
[成果]
 オランダの研究グループは今回,DMD muscle cellHMEJまたはHRに適合するドナーテンプレートとCRISPR-Cas 複合体を,AdVPを介し,HeLa細胞,筋芽細胞およびiPSCに導入し,完全長,すなわち機能する,ジストロフィンをコードする遺伝子のターゲティングを実現した [Graphical abstract引用右図参照].
  • 筋芽細胞では,HMEJドナーがHRドナーよりも有意に高い頻度で部位特異的なジストロフィン遺伝子のノックインを実現した.
  • さらに,HMEJに基づくゲノム編集はiPS細胞では阻害されるが,p53を阻害することで,HMEJを介したジストロフィン遺伝子のノックインを実現した.
  • 遺伝子編集された筋芽細胞は,安定した組換え完全長ジストロフィンタンパク質の合成,および,分化能を維持していた.
  • 最後に,今回実現した安定した全長ジストロフィンの発現は,ほとんどの場合,一般的に使用されているセーフハーバー遺伝子座、すなわち19q13.4-qterのAAV統合部位1 (AAVS1)にHMEJとHRドナー配列が正確に挿入された結果であることが確認された.