2022-12-21 Nuceic Acids Research 誌刊行論文の書誌情報と補足テキストと引用図を追加
2022-09-05 bioRxiv 投稿に準拠した初稿
[注] 指向性進化法 https://www.chem-station.com/chemglossary/2017/11/directed-evolution.html (directed evolution); シス活性 (crRNAの標的部位の切断);トランス活性 (コラテラル活性; 標的結合により起動される非選択的ssDNA切断活性)
2022-09-05 bioRxiv 投稿に準拠した初稿
[注] 指向性進化法 https://www.chem-station.com/chemglossary/2017/11/directed-evolution.html (directed evolution); シス活性 (crRNAの標的部位の切断);トランス活性 (コラテラル活性; 標的結合により起動される非選択的ssDNA切断活性)
[出典] "Improved Genome Editing by an Engineered CRISPR-Cas12a" Ma E, Chen K [..] Doudna JA. (bioRxiv 2022-09-02)Nucleic Acids Res 2022-12-20. https://doi.org/10.1093/nar/gkac1192 [著者所属] UC Berkeley, Lawrence Berkeley National Laboratory, Gladstone Institutes.
CRISPR-Cas12aは、CRISPR-Cas9とは異なり、単一の触媒部位のみを用いて、標的の二本鎖DNA(dsDNA)の切断するシス活性と、非選択的な一本鎖DNA(ssDNA)を切断するトランス活性(コラテラル活性)を備えている。
J. A. Doudnaのチームは今回、シス型とトランス型のDNase活性の相対的な強さがCas12aゲノム編集に及ぼす影響をみるためにまず、構造情報に基づいて、トランス活性を選択的に破壊するLachnospiraceae bacterium 由来Cas12a(LbCas12a)の変異体の合理的設計を試みた。その結果、シス型とトランス型のDNase活性の差が最も大きい変異体が得たが、ヒト細胞でのゲノム編集活性がほとんど見られなかった。
そこで、ヒト細胞で強力なゲノム編集活性を示す変異体の指向性進化法による作出を試みた。その結果、ゲノム上の遺伝子座に依存はするが、PAM-distal領域にcrRNAとのミスマッチを含むHDRドナーを利用した場合に、相同組み換え修復(HDR)の誘導性が高まり、野生型LbCas12aの2〜18倍におよび変異体が得られた。
さらに、部位特異的な復帰変異/reverse mutation [*]により、野生型Cas12aでは編集が困難なゲノム部位において、コラテラル活性も上がるが、優れたゲノム編集効率を持つ改良型Cas12a変異体(improved Cas12a, iCas12a)が得られた。
[*] RuvCドメインとREC-IIドメインの間に位置し、RuvC触媒ドメインの活性化を担うブリッジ・ヘリックス (BH)に導入された変異の一つを野生型残基 (W890)に戻す復帰変異
今回の戦略は、構造的な洞察と、ランダム化と選択を組み合わせる指向性進化法とを組み合わせるゲノム編集ツールの機能向上をもたらすパイプラインを確立したことになり、今後、実験的構造そしてまたは予測構造から高性能なCRISPR/Casシステムを導出することが可能になるであろう。
[補足]
先行研究 [**] で生化学的・単一分子解析により,Francisella novicida Cas12a (FnCas12a) において,RuvC と Rec-II ドメインの間に存在し RuvC の活性化を担う bridge helix における変異がCas12aのシス切断活性におよぼす影響は最小限に止まるが、 非標的鎖 (NTS) トリミング活性を低下させることが示されている.そこでDoudnaらは、BH領域の変異が、標的特異的なシス切断活性を維持したまま、トランス切断を不利にする可能性があると仮定した。その結果、LbCas12aのBH領域におけるW890A変異が、トランス活性を消失させ、シス活性を適度に低下させることを構造情報をベースにした設計の結果、実現した。
[補足]
先行研究 [**] で生化学的・単一分子解析により,Francisella novicida Cas12a (FnCas12a) において,RuvC と Rec-II ドメインの間に存在し RuvC の活性化を担う bridge helix における変異がCas12aのシス切断活性におよぼす影響は最小限に止まるが、 非標的鎖 (NTS) トリミング活性を低下させることが示されている.そこでDoudnaらは、BH領域の変異が、標的特異的なシス切断活性を維持したまま、トランス切断を不利にする可能性があると仮定した。その結果、LbCas12aのBH領域におけるW890A変異が、トランス活性を消失させ、シス活性を適度に低下させることを構造情報をベースにした設計の結果、実現した。
続く指向性進化を経て得た
「高レベルのシスヌクレアーゼ活性と最小限のトランスssDNA切断活性を備えたCas12a変異体」に、驚くべきことに、このW890を復帰させることで、iCas12aが得られた [AlphaFold2による予測構造をまとめたSupplementary Figure 7と野生型から各変異型への推移をまとめたFigure 5-A引用右図参照]。

[**] Cas12aのRECとNUCドメインの連結に寄与するブリッジヘリックスのCas12a活性への寄与. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26265440.html;"Decoupling the bridge helix of Cas12a results in a reduced trimming activity, increased mismatch sensitivity and impaired conformational transitions" Wörle E, Jakob L, Schmidbauer A, Zinner G, Grohmann D. Nucleis Acids Res. 2021-05-01. https://doi.org/10.1093/nar/gkab286
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