[背景] 高品質な蛋白質を大量かつ安定に供給する養殖は重要な産業であり、魚の感染症防止策として、ファージ療法を含む新たな手法の研究開発が続いている。一方で、ファージとバクテリアは進化的軍拡競争の関係にあり、ファージの感染性とバクテリアの感染抵抗性は拮抗的共進化をしてきた。近年、バクテリアのCRISPR/Casシステムを介したバクテリアの獲得免疫機構が明らかにされ、続いて、ゲノム変異や抗-CRISPR蛋白質を介したファージの免疫回避機構が明らかにされてきた。しかしこれまでの成果は、研究室内でのin vitro/in vivo実験によるもので、複雑な栄養条件にさらされる自然環境におけるファージとバクテリアの拮抗的共進化については研究が進んでいなかった。
[成果] 今回、2007年から2014年に渡りフロースルー型養殖条件から毎年採取したカラムナリス病をもたらすバクテリアFlavobacterium columnareとファージの総当たり実験を行ない、両者の共進化の実態を探った:
  • F. columnareの感染抵抗性は、採取年のより古いファージに対して高く、より新しいファージに対して低い(原論文Fig. 1参照)
arms race 1
  • F. columnareの感染抵抗性が、ファージのゲノム拡大を伴うファージ感染性の強化と宿主(感染可能な菌株)範囲の拡大をもたらす(原論文Fig. 2参照)。
  • F. columnareには、II-CタイプとVI-Bタイプの2種類のCRISPR遺伝子座が存在する。いずれについても、コアとなる保存されたスペーサと、主としてファージゲノムの末端にマッチし採取年とともに変化するスペーサがCRISPR遺伝子座端に存在する(原論文Fig. 2参照)。
arms race 2
  • 実験室内で見られたファージ感染抵抗性を示す形態変化は自然環境では見られなかった。