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[注] 多発性嚢胞腎 (polycystic kidney disease, PKD)
[出典] "PKD1 and PKD2 mRNA cis-inhibition drives polycystic kidney disease progression" Lakhia R, Ramalingam H [..] Patel V. Nat Commun 2022-08-15. https://doi.org/10.1038/s41467-022-32543-2 [著者所属] UT Southwestern Medical Center, Regulus Therapeutics Inc, University of Kansas Medical Center
 常染色体顕性多嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease, ADPKD)は、PKD1(約78%)またはPKD2(約15%)のヘテロ接合性の機能喪失型変異により発症する。腎嚢胞発症の古典的仮説は、PKD 遺伝子の一方の対立遺伝子に生殖細胞不活性化変異が生じることに加え、もう一方の対立遺伝子に体細胞不活性化(セカンドヒットと呼ばれる)が生じ、細胞内のポリシスティン発現が完全に失われるとするものである。しかし、近年、腎嚢胞は、必ずしもPKD1のノックアウトを介さずに、機能的なPKD1 遺伝子量が臨界閾値を下回るとことで形成されることを示唆するエビデンスが蓄積されてきた。
 mRNAにおいて、翻訳終止コドンのすぐ下流にあるmRNAの部分3′-UTRは、mRNAを分解から保護し、ポリ(A)テールを介して翻訳を促進する一方で、マイクロRNA(miRNA)との相互作用により、mRNAの翻訳抑制や脱アデニレーションを媒介する。
 ほとんどのmRNA 3′-UTRには進化的に保存されたmiRNA結合要素(miRNA-binding elements, MBE)が存在し、miRNAとの相互作用を介して遺伝子の出力が制御されることを意味する。すなわち、MBEの欠失を介して病因変異アレルの出力、ひいてはタンパク質出力を制御して病気を改善する戦略が考えられる。
 PKD1 はその3′-UTRにmiR-17結合モチーフを持ち、ADPKDモデルではmiR-17の発現と活性が高いことが知られている。研究チームは今回、PKD1 mRNAはその3′-UTRのmiR-17モチーフによってシス阻害されているが、このmiR-17による阻害をブロックすることでPKD1 の減少が逆転するという仮説を検証した。PKD1 PKD2
 研究チームは、CRISPR/Cas9編集を用いて [Fig 1引用右図 a 参照]、ADPKDモデルのPKD1 遺伝子からmiR-17モチーフを欠失させた。miR-17モチーフの削除は、細胞、ex vivo、およびマウスPKDモデルにおいて、Pkd1 mRNAの安定性を改善し、ポリシスティン-1(PC1)の発現を高め、成長を改善するのに十分であることを見出した。
 意外なことに、もう一つのADPKD遺伝子であるPKD2 にも3′-UTR miR-17結合モチーフがあり、このmiR-17モチーフを削除すると、Pkd1 変異モデルにおいてポリシスティン2(PC2)レベルが増加し、腎嚢胞成長が抑制されることも明らかになった。
 さらに、Pkd1/2 シス阻害を薬物で遮断することで、マウスにおける腎嚢胞発症の抑止とPKDの安定化を実現した。
 加えて、、ADPKD患者由来の初代腎臓嚢胞上皮において、PKD1またはPKD2におけるmiR-17欠失が、腎嚢胞の縮小と増殖抑制、pCreb1の発現低下、ミトコンドリア膜電位の改善が見られ、嚢胞形成現象を逆転させることに成功した。
 以上から、MBE欠失を介してmiR-17によるシス阻害を回避することで、
PKD1/2 mRNAの翻訳を促進する手法が、ADPKD治療へ戦略として有望である。
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