[注] CRISPRa (SAM: dCas9-MS2-p65-HSF1) 
[出典] "Identification of the Factor That Leads Human Mesenchymal Stem Cell Lines into Decellularized Bone" Koyanagi A, Onishi I, Muraoka K et al. Bioengineering 2022-09-21. https://doi.org/10.3390/bioengineering9100490 [著者所属] 東京医科歯科大学、文京学院大学
 造血は、ニッチと呼ばれる骨髄微小環境において、造血幹細胞(HSC)と骨髄間葉系幹細胞(MSC)の相互作用によって維持されている。造血幹細胞ではなく、MSCの特定の遺伝子変異が骨髄異形成症候群などの一部の造血器系腫瘍を誘発する。これらの相互作用と疾患発症を解明するためには、特定の遺伝子変異を有するヒトMSC細胞株と骨足場を用いたin vivo骨髄ニッチモデルが必要である。
 著者らは今回、骨髄ニッチ有用な骨足場として脱細胞化骨(decellularized bone, DCB)に着目し、CRISPRaスクリーンを介して、ヒトMSC(UE7T-9細胞)のDCBへの生着を促進する因子候補として唯一SHC4 遺伝子を同定した [Figure 1引用右図参照]。
 続いて、UE7T-9 細胞に対するSHC4 の過剰発現の影響を評価した結果、SHC4 の過剰発現はUE7T-9 細胞の細胞増殖を促進しないが、細胞遊走を有意に促進することが明らかになった。RNA-seqのデータから、SHC4 の過剰発現がUE7T-9細胞の移動能力を促進する遺伝子の発現を高めていることが示唆された。
 今回、DCBへのhMSCsの浸潤と生着に成功したことは、骨髄ニッチ再現への第一歩となる。ヒトとマウスのハイブリッド骨髄ニッチをマウスで再現できれば、DICER1など特定の遺伝子異常をhMSCに誘導してMDSのモデルを作ることが容易になる。移植したDCBは回収しやすく、MDSの腫瘍化を時間経過ごとに解析することができる。