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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[注] RBM (RNA binding motif) /RNA結合モチーフ)
[出典] "Precise genomic editing of pathogenic mutations in RBM20 rescues dilated cardiomyopathy" Nishiyama T [..] Olson EN. Sci Transl Med 2022-11-23. https://doi.org/10.1126/scitranslmed.ade163 [著者所属] U Texas Southwestern Medical Center.
 心筋特異的選択的スプライシング制御因子であるRBMタンパク質20(RBM20)の変異は、家族性拡張型心筋症(familial dilated cardiomyopathyDCM)の一般的な原因である。RBM20の変異の多くは、核内局在を仲介するアルギニン/セリンリッチ(RS-rich)ドメイン内に集まっている。これらの変異は、RBM20の局在異常を引き起こし、心筋細胞の細胞質で異常なリボ核タンパク質(RNP)顆粒を形成し、心臓遺伝子の選択的スプライシング異常を引き起こし、DCMの一因となる。
 著者らは今回、ABEとPEによるヒトのiPS細胞由来心筋細胞のRSリッチドメインにおける病原性p.R634Qおよびp.R636S変異の修正の効果を見た。
  • ABEを利用してヒトiPS細胞においてRBM20 R634Qを修正したところ、A-to-G変換効率92%を達成し、心筋遺伝子の選択的スプライシングの正常化、RBM20の核局在化の回復、および、RNP顆粒形成の排除が実現した。
  • また、PEを利用してヒトiPS細胞においてRBM20 R636S変異の修正を試みたところ、A-to-C変換効率は40%に留まった。
 次に、Rbm20R 636Q変異モデルマウスを作製し、ABEによるDCM治療の可能性を検証した。ホモ接合体(R636Q/R636Q)モデルマウスは、重度の心機能障害、心不全、早死を発症したが、これらのマウスにABEmax-VRQR-SpCas9とsgRNAを含むABEをアデノ随伴ウイルス(AAV9)で全身投与すると、心エコー心機能の回復が見られ、寿命が延びた。RNA配列解析から、ABEによる編集によって、マウスで見られた異常な遺伝子発現が正常化した。
 
 これらの知見は、塩基エディターがDCMの有望な治療アプローチとなる可能性を示した。
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