(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/03/30

  1. [論文] 必須タンパク質の機能解明に必須になる新たなタンパク質分解法:鐘巻将人 (国立遺伝学研究所)
    • 生命維持に必須なタンパク質の機能解明には、タンパク質を極めて短時間で分解あるいは不活性化し、それにともなう表現型の変化を観察する技術が必要である.短い二重鎖RNA(siRNA)によるタンパク質発現抑制はタンパク質が消失するまで長期間を要し、また、CRISPR/Cas9による必須遺伝子のノックアウトは効率が低い.これらに対して、鐘巻(当時、阪大)らがNature Methods (2009年)に発表したオーキシン依存的タンパク質分解系(auxin-inducible degron (AID)システム)は、植物由来のオーキシンによって短時間でタンパク質分解を可逆的に操作可能にした技術である.
    • AIDはこれまで動物細胞と菌類に展開されてきたが、今回、CRISPR/Cas9によるdsDNAの相同組換え修復機構(HDR)によって、AIDタグを標的タンパク質の遺伝子にノックインを実現できたことによって、初めてヒト細胞への展開が可能になった.AIDタグは植物細胞由来AXU/IAAの68-aa断片(mini-AID)であり、別途細胞内で発現させるOsTIR1を介して標的タンパク質をユビキチン・プロテアソーム分解系へと誘導する.
    • ヒト結腸腺癌由来HTC116細胞において、核内のコヒーシン複合体のRAD21サブユニットを標的とした場合、オーキシン添加後17分で半減し、タンパク質消失と同時に細胞成長が停止した.分子量530 KDaの細胞質ダイニン複合体(DHC1)についてもタンパク質の消失と相応する表現型の改変が起こった.さらに、マウスES細胞において、ゲノム複製開始に関与するMCM2タンパク質についてもAID法の効果を実証することができた.
    • [プレスリリース] 国立遺伝学研究所・JST. “取り除けば働きがわかる~特定のヒト細胞内タンパク質を素早く取り除いて機能を探る方法を開発~” 平成28年3月25日
    • [YouTube]「植物ホルモンを利用してヒト細胞のタンパク質を迅速に発現制御する:オーキシンデグロン(AID)技術」 国立遺伝学研究所 分子細胞工学研究部門 教授 鐘巻将人(23:45)https://www.youtube.com/watch?v=41nxW_OdX-o
  2. [論文] 生殖細胞の直接スクリーニングによってゼブラフィッシュへの変異導入と解析を効率化:Ross N. W. Kettleborough (Wellcome Trust Sanger Institute)
    • CRISPR/Cas9によるゼブラフィッシュ変異体の作出・解析を目的とするスケーラブルなパイプラインを構築:編集効率の高いsgRNAのスクリーニングし再注入 → G0胚生成 → 精子由来DNAのアンプリコンの次世代シーケンシング(NGS)によりオス個体をスクリーニング → 体外受精により胚生成 → F1の遺伝子型をKASPで判定 → F1キャリアをスクリーニングして近交系間交配し表現型判定
    • このパイプラインによって、スクリーニングに加えて、変異アレルを保持する精子サンプルの凍結保存も可能になった.
  3. [論文] ゼブラフィッシュの精密ゲノム編集法:David Jonah Grunwald (University of Utah)
    • 相同組み換え用のドナー配列としてssDNAではなくdsDNAを使用し、また、I-Sce1メガヌクレアーゼをドナープラスミドに挿入することで、TALENおよびCRISPR/Casによる標的dsDNA切断の相同組換え修復(HR)の精度と効率を高め、」ゼブラフィッシュのゲノム編集ツールボックスを拡大.HRによって以下を実現:
      • 1コドン(1アミノ酸残基)の改変
      • エピトープをコードする配列の挿入により、内因性タンパク質をタグ付け
      • 内在プロモーターによる標的遺伝子座からのGFP発現
      • ヒトの心臓病に関連するカリウムチャネルの遺伝子KCNH2/HERG のホモログ kcnh6a 遺伝子を対象として、その必須エクソンに隣接してloxP サイトを挿入し、Cre リコンビナーゼによる条件付き変異導入を実現
    • [プレビュー] Arish N. Shah & Cecilia B. Moens. “Approaching Perfection: New Developments in Zebrafish Genome Engineering” Dev. Cell. 2016 Mar 21;36(6):595-596.
  4. [論文] カイコにおけるCRISPR標的サイトの拡張:Yongping Huang; Anjiang Tan (Shanghai Institutes for Biological Sciences)
    • CRISPR/Cas9によるゲノム編集においてsgRNA標的サイトは通常GN19NGGまたはGGN18NGGから設計される.RNA Pol Ⅲプロモーターに対応する開始ヌクレオチド制限のためである.これに対して、Bombyx mori のU6プロモーターは、N20NGGのsgRNAsをin vivo /in vitro で発現す
  5. [論文] 聾唖者由来iPSCの変異遺伝子の修復:Jin-Fu Wang (浙江大学)
    • MYO7A の複合ヘテロ接合体(c.1184G>A/c.4118C>T)の聾唖患者由来のiPSC細胞のc.4118C>T変異をCRISPR/Cas9で修復し、形態ならびに機能においても内耳有毛細胞に相当する細胞への分化を実現.