[出典] REVIEW "Molecular recording: transcriptional data collection into the genome" Lear SK, Shipman SL. Curr Opin Biotechnol. 2022-12-05. https://doi.org/10.1016/j.copbio.2022.102855 [著者所属] Gladstone Institute of Data Science and Biotechnology, UCSF, Chan Zuckerberg Biohub
 再生医療の進歩は、細胞の発生を誘導する複雑な転写の制御機構の理解にかかっている。転写イベントを対象とする分子レコーダーは、転写活性の強度とタイミングの両方を非侵襲的かつ単一細胞の分解能で記録・読み出し可能にすることが期待されている。分子レコーダーは、
Molecular recording G. A.転写イベントの期間、強度、順序を安定したゲノム変異に変換するDNAライター(DNA writer)に依存している [Graphical abstract引用右図参照]
 本総説では、3つの異なるタイプのDNAライター、部位特異的リコンビナーゼ、逆転写酵素とCRISPRインテグラーゼ (Cas1-Cas2)の組み合わせ、および、プライム・エディティング (PE)、を取り上げて、より情報量が多く多重化可能な転写記録への最近の進展と、生成されるゲノムデータの構造を紹介する
[Figure 1引用左図参照]
Molecular recording 1(a)部位特異的リコンビナーゼは、2つの認識部位の間でDNAを修飾する。直交するリコンビナーゼからの各編集が転写イベントを示し、比較的効率が良いが、スケールアップが困難であり、また、方向性に欠けているイベントの順序を再構築できない。
(b) 細胞内在RNAまたはバーコードRNAが目的のプロモーターから発現され、Cas1-Cas2を介してCRISPRアレイに取得・統合できるDNAプレスペーサーに逆転写される。各スペーサーは拡張が容易なアレイにおいて常にリーダー配列の隣に組み込まれ、イベントの順序推測を可能とする。ただし、対象がバクテリアに限定されている。
(c) PEにおいては、バーコードを付与したpegRNAが、目的のプロモーターから発現される。このpegRNAは、転写イベントに対応するバーコードを組み込んだアレイ内のPBS(pegRNA-binding sequence)にPEを誘導し、前のPBSを不活性化し、次のPEが結合できる新しいPBSを追加する。この設計により、イベントの順序を推測可能になる。真核生物への展開と多重化が可能であるが、効率が課題である。
 近年、転写記録装置の拡張性と移植性が飛躍的に向上し、今後も最適化が進めば、効率と分解能がさらに向上すると思われる。しかし、拡張可能な配列ベースのデータ構造に固有の制約が内在していることを考えると、生物学的データ保存のための代替アーキテクチャを研究していく必要がある。
 
 [PE関連crisp_bio記事]
  • [20220709更新] DNAタイプライター:逐次的なゲノム編集に基づき細胞事象の時系列を明示的に記録可能とするDNAレコーダー. https://crisp-bio.blog.jp/archives/28730021.html
  • 2022-02-25 ENGRAM:哺乳類細胞においてエンハンサーおよびシグナル伝達パスウエイの活性の多重記録を実現するDNAレコーダー. https://crisp-bio.blog.jp/archives/28730070.html
  • 2022-02-25 peCHYRON: プライムエディティング (PE)を利用して細胞内の事象を順次DNAに記録するDNAレコーダー'peCHYRON'. https://crisp-bio.blog.jp/archives/28730002.html; [20210323更新] 細胞事象DNAレコーダに、挿入変異を累積する新手法CHYRON 加わる. https://crisp-bio.blog.jp/archives/17700071.html