[1] エピゲノム編集:ヒト細胞において、dCas9-メチルトランスフェラーゼにより標的DNAをメチル化
- 先行研究にて、ヒトDNAメチル化酵素DNMT3aまたはNMT3a-DNMT3LをdCas9に融合しgRNAでガイドすることによる標的サイトのメチル化が実現されていた。しかし、精密に単一のCpGサイトをメチル化する設計がなされておらず、内在DNMT3a/DNMT3Lによるメチル化加速の問題が存在した。加えて、DNMT3a/DNMT3Lには、ヒストン修飾酵素(脱アセチル化、メチル化)の調節を受けるドメインが存在している。
- 今回、哺乳類ゲノムにおいて標的とするCpGサイトを特異的にDNAメチル化するシステムを開発:バクテリアSpiroplasma sp.由来のMTase、M.SssI、をMN(1~271)とMC(273~386)に分割し(sMTase)、dCas9とMCを融合し、dCas9が標的サイトに結合するとMCがMNと結合し、MTaseとして機能するように設計。
- PAMからの距離と向きの関数として標的CpGサイトのメチル化地図を作成;標的サイトのメチル化は〜70%;多重なsgRNAsにより、単一プロモーター内の多重なサイトのメチル化可能
- dCas9-sMtaseは、DNAメチル化の始まり、広がり、および継承の解析や遺伝子サイレンシングによる遺伝子治療のツールとして有用
- Xiong T, Meister GE, Workman RE, Kato NC, Spellberg MJ, Turker F, Timp W, Ostermeier M, Novina CD. “Targeted DNA methylation in human cells using engineered dCas9-methyltransferases.” Sci Rep. 2017 Jul 27;7(1):6732.
[2] エピゲノム編集:マウス受精卵/ES細胞において、TALENおよびdCas9とバクテリア由来のメチル化酵素で、標的DNAをメチル化
- ペリセントロメアのメージャーサテライトを標的とするDNA結合モジュールとSpiroplasma sp.由来のCpGメチル化酵素Ssslの融合蛋白質TALMaj-SssIを作製し、蛍光プローブを利用したメチル化の動態を可視化。また、dCas9にSsslを融合し同様にメージャーサテライトを標的とするgRNAでのメチル化を実現。ただし、マイナーサテライトとレトロトランスポゾンでのオフターゲット作用発生。
- Yamazaki T, Hatano Y, Handa T3, Kato S, Hoida K, Yamamura R, Fukuyama T, Uematsu T, Kobayashi 1, Kimura H, Yamagata K. “Targeted DNA methylation in pericentromeres with genome editing-based artificial DNA methyltransferase.” PLoS One. 2017 May 18;12(5):e0177764.
[3] CRISPR/Cas9スクリーニングで明らかになったToll様受容体応答におけるグリコシル化の新規機構
- Toll様受容体(TLR)は病原体を感知すると下流のシグナル伝達経路を介してMAPキナーゼとNF-κBの活性化に至ることが明らかにされているが、その分子機構は完全には解明されていない。今回、NF-κB駆動GFPレポーターとTLRを発現する細胞株へのgRNAs送達とTLRリガンド刺激によるCRISPR/Cas9スクリーニングを実施、TLR応答必須とされる既知分子の同定に加えて、新規分子を同定
- 翻訳と同時に起こるグリコシル化を媒介するオリゴ糖転移酵素複合体(OSTC)がTLR5/7/9の応答に必須;OSTC欠損株において、TLR5蛋白質発現阻害
- Sato R ~ Miyake K. “Requirement of glycosylation machinery in Toll-like receptor responses revealed by CRISPR/Cas9 screening.” International Immunology. 28 July 2017.
[4] pgRNAFinder:間隔に制限が無いgRNAペア(paired-gRNA)の設計も可能にしたWebサービス
- sgRNAcas9s (Xie, et al., 2014)、SSC (Xu, et al., 2015) およびOff-Spotter A (Pliatsika and Rigoutsos, 2015) を統合
- Webサイト:http://songyanglab.sysu.edu.cn/wangwebs/pgRNAFinder/
- Xiong Y ~ Songyang Z, Dai Z. “pgRNAFinder: a web-based tool to design distance independent paired-gRNA.” Bioinformatics. 27 July 2017.
[5] [展望] 血液学におけるCRISPR/Cas9の利用に関する技術的考察
- 造血幹細胞と前駆細胞を含む造血細胞を対象とするCRISPR/Cas9 によるゲノム編集遺伝子破壊、遺伝子ターゲッティングおよび遺伝子スクリーニング(飽和突然変異誘発)を展望し、May 2017 International Society of Experimental Hematology New Investigator Committee webinarにおけるsgRNAの設計やCas9送達の最適化などの技術的議論を集約。
- Gundry MC, Dever DP, Yudovich D, Bauer DE, Haas S, Wilkinson AC, Singbrant S. “Technical Considerations for the Use of CRISPR/Cas9 in Hematology Research.” Experimental Hematology. 2017 Jul 27. pii: S0301-472X(17)30662-8.
[6] 肺扁平上皮癌に見られる異数性モデル作出
- CRISPR/Cas9により染色体3pの1コピーを削除
- Taylor A, Gavin H, Shih J, Zhang X, Campbell J, Andrew C, Meyerson M. “CRISPR-Cas9 system to delete one copy of chromosome 3p, which is lost in 90% of lung squamous cell carcinomas (SCCs).” Journal of Thoracic Oncology. Aug 2017;12(8) Supplement:S1545. Available online 26 July 2017.
[7] 先天性角化異常症における二次造血不全にはp53が介在する
- CRISPR/Cas9により、テロメラーゼに先天性角化異常症(Dyskeratosis Congenita, DC)の病因変異を帯びたES細胞を作出し、変異が造血過程の2種類のプログラム、一次造血と二次造血、に与える影響を解析。
- テロメア短縮は、DNA損傷とp53安定化を介して二次造血を特異的に阻害;in vitroでの造血不全が、DCの再生不良性貧血に類似の表現型
- 病因変異導入ES細胞が、骨髄機能不全の療法研究のプラットフォームとして有用
- Fok WC, Niero ELO, Dege C, Brenner KA, Sturgeon CM, Batista LFZ. “p53 Mediates Failure of Human Definitive Hematopoiesis in Dyskeratosis Congenita.” Stem Cell Reports. 2017 Jul 18. pii: S2213-6711(17)30278-3.
[8] 絶滅種の復活(de-extinction)は特別なことなのか?
- CRISPR/Cas9を利用する遺伝子改変生物の一種でありそれ以上でもそれ以下でも無く、CRIPR/Cas9技術の制御について考察することこそ重要
- Greely HT. “Is De-extinction Special?” Hastings Cent Report. 2017 Jul;47 Suppl 2:S30-S36.
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