2023-05-14 関連レビューや論説へのリンクを追記
2023-01-18 Science 誌刊行論文に準拠した初稿
[注] CaMKIIδ:calcium calmodulin-dependent protein kinase IIδ / カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ 
[出典] "Ablation of CaMKIIδ oxidation by CRISPR-Cas9 base editing as a therapy for cardiac disease" Lebek S [..] Olson EN. Science 2023-01-12. https://doi.org/10.1126/science.ade1105 [著者所属] UT Southwestern Medical Center, University Hospital Regensburg (兼任).
 CRISPR-Cas9遺伝子編集は、単一遺伝子疾患の治療法として盛んに研究開発が進められているが、そのほとんどが、少数の患者に生じる特定の遺伝子変異の修正に焦点を当てている。著者らは今回、世界的な罹患率および死亡率の主要原因である心血管疾患を有する広範な成人患者に適用可能なCRISPR-Cas9遺伝子編集療法の開発を目指した。
 CaMKIIδは心臓のシグナル伝達と機能の中心的な制御因子であり、その慢性的な過剰活性化は、ヒトやマウスにおいて、虚血再灌流傷害、心不全、肥大、不整脈などの心疾患を引き起こす。CaMKIIδの過活性化は、その制御ドメインに存在する2つのメチオニン残基、Met281とMet282の酸化によって触媒ドメインと自己抑制領域の結合が阻害されることで、促進される。
 このメチオニン残基を他のアミノ酸に置換すると、CaMKIIδの酸化と過剰活性化が抑制され、心筋保護効果が得られることが、両メチオニン残基を生殖系列でバリンに置換したノックインマウスで示されている。また、この遺伝子組換えはモデルマウスに悪影響を及ぼさなかった。両メチオニンは選択スプライシングを受けないエクソン11にコードされているため、酸化的活性化部位を標的とすれば、すべてのCaMKIIδスプライシングバリアント(例えば、主要な心臓バリアントとしてCaMKIIδB、δC、δ9)に影響を及ぼすことになる。
 著者らは、sgRNA候補およびABEのバージョンを比較評価した結果、ABE8e-SpRYを採用して、メチオニン(ATG)をバリン(GTG)に変換した。
  • ヒトiPS細胞に由来する心筋細胞において、ABEを利用してCaMKIIδ遺伝子の酸化感受性メチオニン残基を除去するとで、虚血再灌流障害から心筋細胞が保護されることを示した。
  • さらに、モデルマウスに虚血再灌流障害を誘導した直後に、CaMKIIδ遺伝子を標的とするABEを投与することで、重篤な障害から心臓の機能を回復させることに成功した。すなわち、心臓発作が起きた後に介入しても手遅れではならない可能性が示唆された。
 CaMKIIδ遺伝子編集は、心臓病治療のための永続的かつ先進的な戦略であると考えられる。