2024-05-02 Bio Protocol 誌刊行プロトコル論文の書誌情報を以下に追記:
CRISPR/dCas9-Tet1-Mediated DNA Methylation Editing" Junming Qian, Shawn X Liu. Bio Protoc 2024-04-20. https://doi.org/10.21769/BioProtoc.4976

2023-01-29 Science Translational Medicine 誌刊行論文に準拠した初稿
[注] MECP2  (methyl CpG-binding protein 2) 
[出典] "Multiplex epigenome editing of MECP2 to rescue Rett syndrome neurons" Qian J, Guan X [..] Jaenisch R, Liu XS. Sci Transl Med 2023-01-18. https://doi.org/10.1126/scitranslmed.add4666 [著者所属] Columbia University Medical Center, Whitehead Institute for Biomedical Research, Boston Children's Hospital, MIT.

 レット症候群(Rett syndrome: RTT)は、若年女性のX染色体上のMECP2 の機能喪失型ヘテロ接合性変異によって引き起こされるX連鎖神経発達障害である。X染色体の不活性化の機構 [*]によって、RTTでは、野生型と変異型のMECP2  遺伝子が発現している細胞が混在していることから、MECP2  の不活性X染色体(inactive X chromosome: Xi)から野生型MECP2  アレルを再活性化し、細胞レベルでMECP2の発現を正常化することは、レット症候群女性患者にとって有望なアプローチである。
[*] 2本の染色体を帯びている細胞では、X染色体上の遺伝子座が2倍存在することによる過剰発現を回避するために、細胞内ではどちらか一方の染色体が発現するようにエピジェネティックな不活性化が起こっている。
 米国の研究チームが今回、多重エピゲノム編集法を用いて、レット症候群ヒト胚性幹細胞(hESC)とその由来の神経細胞においてXiからMECP2を再活性化させることに成功した。
  • はじめに、MECP2プロモーターをdCas9-Tet1-sgRNAを介して脱メチル化することで、転写レベルでのオフターゲット効果を検出することなく、RTTヒトES細胞においてXiからのMECP2再活性化を実現した。このRTTヒトESCから分化した神経細胞でも、MECP2の再活性化が維持されたが、神経細胞の正常な活性回復には不十分であった。
  • 研究チームはここで、X染色体不活性化の影響を受けない遺伝子(escapees)に注目した。Escapeesはしばしば、ゲノム上の他の領域から絶縁するインスレーターとして機能するCTCFタンパク質を伴っていた。そこで、MECP2 を囲むアンカーポイントにCTCFを付加することで、MECP2 が近傍の遺伝子サイレンシングから隔離することを試みた。具体的には、RTT神経細胞において、MECP2 遺伝子座を標的とするdCpf1-CTCF-crRNAによって、MECP2の再活性化をさらに亢進することに成功した。
 Cas9とCpf1 (Cas12a)は互いに直交関係に有り、併用が可能である。本研究において、脱メチル化とCTCF付加の組み合わせにより、MECP2の発現が大幅に上昇しただけでなく、神経細胞のサイズと電気的活性が正常に復した。この結果は、このアプローチによるRTTおよび他の顕性X連鎖疾患の治療可能性を示した。
 
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