[注] 論文中では、(d)Cas12aファミリーのタンパク質を一括して(d)CasP [dCasP]と表記している。
[出典] "CRISPR-associated type V proteins as a tool for controlling mRNA stability in S. cerevisiae synthetic gene circuits" Yu L, Marchisio MA. Nucleic Acids Res 2023-01-18. https://doi.org/10.1093/nar/gkac1270 [著者所属] Tianjin U
 天津大学の研究チームが、タイプV CRISPR-Casシステムに基づく、新しい効率的なmRNA分解ツールを開発し、dCasP:pre-crRNA mRNA分解ツールとして発表した。
この方法は、dCas12aタンパク質を発現させ、標的mRNA(ここではyEGFP またはTtlcc1 )の5′-または3′UTRに(同族または非同族の)プレcrRNA配列を挿入することが前提である。
一般的に使用されている3種類のタイプV dCasP [dFnCas12a、dLbCas12a,  denAsCas12aとその変異体(dCasP-NLSとdCasP-NES)]をテストした。その結果、素のdFnCas12aは、NLSあるいはNESタグと融合しない限り、mRNAを分解できず、さらに、同族であるpre-crRNAに対して明確な嗜好性を示した。一方、素のdenAsCas12aは、その2つの変異体、すなわちdenAs-NLSおよびdenAs-NES、を凌駕する性能を示した。dLbCas12aおよびその2つの変異体の挙動は特定のパターンを示さなかったが、yEGFPの発現を強く阻害することが示唆された。
  • いずれのdCaspについても、プレcrRNAが5′UTRに配置されている場合の方が3'UTRに配置した場合よりも、mRNAの分解率が高いことが明らかになった。
  • さらに、dCasP:pre-crRNAに基づくmRNA分解効率は、標的mRNAの濃度に依存しないことが確認された。
  • また、3種類のdCasPの他に、dMbCas12a と dCasϕ2 も、yEGFP 発現を抑制するが、タイプ VI LwaCas13a はそうした活性を示さず、dCasP:pre-crRNAツールがタイプV CRISPRシステムのdCaspに特有のツールであることが示唆された。
  • 研究チームは、これらの結果を受け、dCasP:pre-crRNA mRNA分解ツールをブール論理ゲートの構築に応用した。すなわち、ガラクトースや銅に反応するNOTゲート、メチオニンに反応するYESゲート、銅とメチオニンに制御されるIMPLYゲートを実現した。後者は、dLbCas12a-2xNESシステムを分割して使用した。
 本研究で確立したdCasP:pre-crRNAツールは、mRNAレベルで遺伝子発現を制御するための柔軟かつ簡便なソリューションである。複雑な遺伝子ネットワークを構築するためには、転写の他に翻訳を調節することが重要であることが知られており、さまざまな工夫がされてきたが、dCasP:pre-crRNA mRNA分解ツールは、mRNAの分解により、その翻訳制御を簡便に実現する。確かに、ターゲットmRNAを機能的なヘアピン構造で修飾することは要求されるが、リボスイッチやリボザイムとは異なり、それ以上の工学的処理を必要としない。さらに、このツールは、酵母細胞内で毒性を示すことなく大量に発現させることができるタイプV dCasPをベースとしている。また、遺伝子ブーリアンゲートの構築にも簡単に適用できることが実証された。CasP
 このような特長を備えたdCasP:pre-crRNA mRNA分解ツールは新規なバイオセンサー[図6の概念図引用右図参照]や、DNAコンピューティングのためのさらに大きなデジタル回路の構築を可能にする可能性がある。