2023-06-17 Nature 誌刊行論文の書誌情報を挿入し、クライオ電顕法により再構成された関連複合体の構造情報 (文末)を追記した。また、記事タイトルを「CRISPR-Casシステムの適応のステージを担うCRISPRトリマー・インテグラーゼ(trimmer-integrase)を発見」から「Cas4を欠失したCRISPRシステムの適応ステージを担うCas1-Cas2/DnaQ-like exonucleasを発見」に改訂
2023-02-03 bioRxivに準拠した投稿
[出典] "
Genome expansion by a CRISPR trimmer-integrase" Wang JY, Tuck OT, Skopintsev P [..] Doudna JA. (bioRxiv 2023-01-24). Nature 2023-07-14. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06178-2 [著者所属] UC Berkeley, LBNL, Gladstone Institute.
 微生物とアーケアのCRISPR-Cas適応免疫系は、侵入した可動性遺伝因子(mobile genetic elements: MGE)からDNA断片を獲得し、宿主ゲノムに統合してRNA誘導免疫のテンプレートを提供する。この「獲得・統合」の段階はadaptation(適応)と呼ばれる。CRISPRシステムはまた、自己と非自己を区別することによってゲノムの完全性を維持し、自己免疫を回避する機能も備えている。
 この適応のプロセスには、CRISPRシステムのCas1:Cas2インテグラーゼが必要であるが、十分ではない。一部の微生物では、Cas4エンドヌクレアーゼがCRISPRシステムの適応を助けるが、多くのCRISPR-CasシステムではCas4が欠損している。
 J. A. Doudnaの研究チームは今回、Cas1-Cas2:exonucleaseプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を介した統合のために、内部のエキソヌクレアーゼ(DnaQ-like exonucleas: DEDDh)を用いてDNAを選択・処理するエレガントな代替経路があることを示した [Figure 1 引用右図参照]。すなわち、天然のCas1:Cas2とエキソヌクレアーゼがトリマー・インテグラーゼ複合体として融合・協働することで、外来DNAの獲得、トリミング、統合を触媒することを明らかにした。
 外来DNAの統合前と統合時の段階のトリマー・インテグラーゼの5種類の構造を、クライオ電顕法により再構成し、サイズが特定されたPAM含有基質(CRISPRアレイに統合されるスペーサー)が、非対称的なプロセスを経て生成される様子を示した。また、ゲノムに統合される前の段階で、PAM配列がCas1によって解放され、エキソヌクレアーゼによって開裂されることで、挿入されたDNA断片が自己と判定され、宿主のCRISPRシステムによる標的化を防いでいるとした。
 今回得られたデータは、Cas4を欠くCRISPRシステムが、融合あるいはリクルートされたエキソヌクレアーゼを介して、新たなCRISPRアレイに統合するスペーサを忠実に獲得するというモデルを支持するものであった。
[注] bioRxiv 投稿時には AlphaFold2を利用してCas2-DEDDhの予備的モデルを計算したが、Nature 論文では、クライオ電顕法により5種類の構造を再構成し、Cas1-Cas2/DEDDhシステムによる適応過程の機序を論じた:
[構造情報]
  • PDB 8FY9/EMD-29561: Cas1–Cas2/DEDDh: PAM-deficient prespacer complex
  • PDB 8FYA/EMD-29562: Cas1–Cas2/DEDDh: PAM-containing prespacer complex
  • PDB 8FYB/EMD-29563: Cas1–Cas2/DEDDh: half-site integration complex
  • PDB 8FYC/EMD-29564: Cas1–Cas2/DEDDh: half-site integration complex linear CRISPR repeat conformation
  • PDB 8FYD/EMB-29565: Cas1–Cas2/DEDDh: half-site integration complex with CRISPR repeat bent conformation