[注] TMEJ(DNA polymerase theta (Pol θ)-mediated end joining)
[出典] "Modulating mutational outcomes and improving precise gene editing at CRISPR-Cas9-induced breaks by chemical inhibition of end-joining pathways" Schimmel J, Muñoz-Subirana N [..] Tijsterman M. Cell Rep. 2023-01-25. https://doi.org/10.1016/j.celrep.2023.112019 [著者所属] Leiden U Medical Center, Leiden U, Erasmus Medical Center, Columbia U Irving Medical Center, Artios Pharma, Francis Crick Institute;
[二本鎖DNA切断の修復過程の復習] [*1, *2]
 CRISPR-Cas9によるゲノム編集は、Cas9が誘導する二本鎖DNA切断(DSB)が細胞内在の過程によって修復される現象に依存している。DSBの修復過程としては、非相同末端結合(non-homogeneous end joining; NHEJ)と相同組み換え(homology recombination; HR)が良く知られているが、さらに、これらに加えて、いわば代替過程としてalternative NEHJ/micro-homology-mediated end-joining(a-EJ、alt-NEHJ、backup NEHJ、MMEJ、synthesis-dependent MMEJとも称される)および、一本鎖アニーリング過程(single-strand annealing; SSA)が知られている。
 NEHJは、切断されたDNA末端を直接結合させ、HR, a-EHおよびSSAは、切断した末端を5'から3'に向けて切断し、3’ ssDNAのオーバーハングを生成する過程を経て、切断されたDNAを修復する。この切除はHR、a-EJ、SSAにとって重要なDNA末端中間体を生成するとともに、NHEJによる修復を阻害し、それによってDSB修復経路の選択を制御する役割を担っている。HRによる切断端の修復では、姉妹染色体や相同染色体をテンプレートとしたDNA合成が行われるが、SSAでは切断されたオーバーハングに比較的長い(50bp以上)相補配列のアニーリングが必要とされる。a-EJは、多くの別称の存在が示唆するようにその機構は明確に定義しきれていない。
 今回紹介論文では、NHEJ、HR、およびa-EJの中で主たるDNAポリメラーゼθ(Pol θ/theta)を介した修復過程であるTMEJについて、報告している。
[注] 酵母のSaccharomyces cerevisiae  や Schizosaccharomyces pombeにはPol θのオーソログが存在せず、Pol θを介さないa-EJが存在する。酵母以外の真核生物においても、酵母のa-EJとは異なる機構であるが、Pol θに依存しないa-EJが存在するとされている。

[成果]
 Schimmelらは今回、低分子によるNHEJとTMEJの阻害が、CRISPR-Cas9で誘導されたDSBの修復結果に及ぼす影響を明らかにした。
最近開発されたPolϴ阻害剤ART55834の作用をマウスとヒトの細胞で検証し、異なる標的部位におけるCRISPR-Cas9誘発突然変異のシグネチャーを解析した。ART558 は、Pol_3F4 が DNA と結合している間、その閉じたコンフォメーションを安定化させることによってポリメラーゼ活性をブロックすることが示されているが、ART558投与が、Polθのノックアウトによる表現型を再現し、TMEJ の阻害によってマイクロホモロジーを介した欠失形成が強く抑制されることを見いだした。2023-01-28 9.51.16
 一方で、DNK-PKcs阻害剤のNU7441でNHEJを阻害すると、突然変異のスペクトルがマイクロホモロジーを介した修復がもたらす産物にへとシフトし、kbサイズの大規模な欠失の形成が誘発されたが、これはART558によって抑制された。
 さらに、ART558でTMEJを阻害すると、NU7441との併用で、Cas9誘導DSBのHDRによる修復の効率が最も大きく向上することが示された [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。
 本研究は、低分子EJ阻害剤は、CRISPR-Cas9アプローチの突然変異の結果を調節し、過剰な欠失を減らし、HDRを促進する有用性があることが明らかにし、さらに、抗がん剤候補とされているPolϴ阻害剤のCRISPR-Cas9療法への利用可能性を示した。

[*] 参考文献 
  1. "Mechanism, cellular functions and cancer roles of polymerase-theta-mediated DNA end joining" Ramadan DA, Carvajal-Garcia J, Gupta GP. Nat Rev Mol Cell Biol. 2021-09-14. https://doi.org/10.1038/s41580-021-00405-2Fig. 1 DNA double-strand break repair pathways and microhomology use during end joining と Fig. 2: Molecular mechanism of Polθ-mediated end joining 参照
  2. "Essential roles for Polymerase θ mediated end-joining in repair of chromosome breaks" Wyatt DW [..] Ramadan DA. Mol Cell. 2016-08-18/07-21. https://dx.doi.org/10.1016/j.molcel.2016.06.020
[Polθ 関連crisp_bio記事と論文]