[出典] "Metabolically-targeted dCas9 expression in bacteria" Pellegrino GM [..] Edgell DR. Nucleic Acids Res 2-23-01-25. https://doi.org/10.1093/nar/gkac1248 [著者所属] Schulich School of Medicine and Dentistry, U Guelph
 ヒトの消化管(gastrointestinal: GI)のマイクロバイオームは、微生物組成や代謝活性の変化を通じて、健康や疾病に大きな影響を及ぼす可能性があり、それらを操作する技術が求められている。マイクロバイオームが示す代謝活性は、関連する代謝経路が集団内に不均一に分布し、特定の代謝経路はバクテリアのサブセットに限定されている。また、関連する微生物種は、代謝物を交換するバクテリア集団の一員でありつつ、関連遺伝子の量や発現は一様ではない。遺伝子発現の制御は、dCas9をベースとするCRISPRa/iを介して可能になったが、dCas9の発現はバクテリアに対して毒性を示すことから、関心のある代謝活性に関与する微生物種にdCas9の発現を限定する必要がある。カナダの研究チームは今回、マイクロバイオームを構成するバクテリアにおける代謝経路の多様性を利用して、dCas9の発現を、代謝活性に関連する種に限定する手法を報告した。
 研究チームが注目した代謝活性は、ヒトの消化管(GI)において、化学療法薬のイリノテカンを含むグルクロン酸化合物の毒性の再活性化に関与するグルクロン酸資化酵素(GUS)の活性である。dCas9前述した一般論にあるようにGUS酵素 (β-glucuronidase)の分布が多様なことを利用して、GUS活性を示す菌体を識別する手段として、研究チームは、グルクロン酸誘導剤に応答してdCas9発現を制御するバイオセンサーとして、グルクロン酸応答性転写因子GusRを再利用するアプローチを取った [Figure 1 引用右図参照]。
  • Escherichia coli  のgusA制御領域をdCas9遺伝子に融合しすることでpGreg-dCas9因子を作出し、dCas9の発現がグルクロン酸によって特異的に誘導され、他の炭素源では誘導されないことを確認した。
  • 続いて、E. coli からヒトの糞便由来のガンマプロテオバクテリアにpGreg-dCas9を接合伝達することで、dCas9の発現がGUS陽性バクテリアに限定され、かつ、gusオペロンの転写の特異的制御を介して、GusA活性を約100分の1にまで低減することを見出した
 本研究は、代謝産物に応答する転写因子を再利用することで、複雑な構造のマイクロバイオームにおいて、dCas9をはじめとする遺伝子操作ツールをリガンド依存的に発現可能とするアプローチの有効性を示した。