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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

202303-19 Nature Biotechnology 誌掲載Research Highlight記事へのリンクを追加:"Cardiac defect corrected in vivo with CRISPR" Fudge J. Nat Biotechnol. 2023-03-15 https://doi.org/10.1038/s41587-023-01721-y

2023-03-02
Nature Reviews Cardiology 誌掲載Research Highlight "ゲノム編集で - 肥大型心筋症を予防 - マウスで実証"への書誌情報とリンクを追記:"Genome editing prevents hypertrophic cardiomyopathy in mice" Lim GB. Nat Rev Cardiol 2023-02-27. https://doi.org/10.1038/s41569-023-00852-8

2023-02-20
 初稿
- HCM前臨床モデルにおいて、ABEによる発症前のA-to-G変換が治療効果が示した
[出典] NEWS & VIEWS "CRISPR gene-editing therapies for hypertrophic cardiomyopathy" Strong A. Nat Med 2023-02-16. https://doi.org/10.1038/s41591-022-02184-5

 HCMは、心筋の異常な肥厚を特徴とする原発性心疾患であり、サルコメア蛋白質をコードする遺伝子のヘテロ接合性の病原性変異によって引き起こされる。 HCMはしばしば若年成人期に発症し、心不全、不整脈、心臓突然死へと進行する可能性があるが、治療の選択肢は限られている。

 一方で、近年、生体内CRISPR遺伝子編集が、トランスサイレチンアミロイドーシス、がん、血液疾患、網膜変性症などのヒト疾患に対する治療法候補として台頭してきている。Nature Medicine誌から2023年2月16日付の2論文で、ChaiらUT Southwestern Medical Centerの研究チーム[*1]と、Reichartら米国ボストンを中心とする研究チーム [*2]が互いに独立に、アデニン塩基エディターABEによる一塩基置換(A-to-G)が、HCMの病因変異の中でも最もよく研究されているMYH7 遺伝子のミスセンス変異(c.1208G>A;p.Arg403Gln)を修復し、ひいては、HCM療法になり得ることを、報告した。

 Chaiらは、p.Arg403Gln変異体のオンターゲット編集活性を最大化し、バイスタンダー編集活性を最小化する変異型ABEとガイドRNA(gRNA)を特定し、HCM患者由来の細胞において効率的なた病因変異修復を実現した。また、編集効率と表現型の救済を生体内で検証するため、MYH7 p.Arg403Gln変異体の新たなヒト化マウスモデルを開発し、ヒトへの応用を目的に開発したgRNAの直接検証を実現した。このヘテロ接合体のヒト化マウスは生後9カ月までに心室肥大と線維化を起こすが、ホモ接合体のマウスは著しい心筋症と線維化を起こし、生後1週間程度で死亡する。

 Chaiらは、アデノ随伴ウイルスベクター9(AAV9)を利用してABEとgRNAを導入し、心筋トロポニンT(cTnT)プロモーターの使用することで、それらの発現を心筋細胞に限定した。ホモ接合体マウスに高用量のベクターを生後1日目に胸腔内に注入したところ、転写レベルで約35%の修正が得られ、寿命は2週間まで延長した。ヘテロ接合体マウスでは、未投与のマウスと比較して、同様の補正が得られ、生後16週までの左心室肥大とリモデリングが救済された。検出可能なバイスタンダーやオフターゲットのRNA編集はなかった。
[注] SpCas9の改変体 (
SpRY, SpG, SpCas9-NG, SpCas9-VRQR)をベースとするABE8e, ABE7.10およびABEmaxを評価し、ABEmaxVRQRを選択 

 Reichartらも、Chaiらと同様にアデニン塩基エディターを利用したが、心筋細胞特異的なニワトリTNNT2プロモーターで駆動するABE8eをスプリットし、デュアルAAVを利用して送達することで、発症前のモデルマウスにおいて、Chaiらと同一の病因変異の修復を実現した。発症前のマウスで同じ病原性変異を修正した。ただし、Chai らと対照的に、先行研究で樹立した病原性変異体がMyh6 遺伝子座の相同位置に存在する非ヒト化マウスモデル129SvEvマウスでの実験であり、ヒト特異的 gRNA の試験は行われていない。

 雄マウスが20~25週で心筋症を発症する129SvEvにおいて、生後10~13日目に処理(マウス特異的gRNAを使用)すると、心室心筋細胞で約68%、心房心筋細胞で26~39%の転写産物が補正された。生後32-34週のテストでは、心肥大の救済、心線維化の改善、制御不能な遺伝子発現の正常化が確認された。ABEを含む塩基エディターに特有な望ましくない編集、バイスタンダー編集、が検出され、また、これがAAVの連続注入で増加した。この結果は、編集ウィンドウが広いABEと、ゲノムの多くの部位との関与を促す特異性の低いPAMの選択に一因があると思われる。
 Reichartらは、ABEとは対照的に二本鎖DNA切断を導入するStaphylococcus aureus Cas9ヌクレアーゼを用いて、病原性p.Arg403Glnアレルを選択的に不活性化させることが可能であり、機能的にも、効率的な編集と肥大の表現型の救済が示された。しかし、高用量では収縮機能の低下が見られ、また、心筋細胞における野生型アレルの意図しない編集のために治療の幅が狭いことが示された。
 
 ChaiらとReichartらの報告は、HCMモデルにおけるCRISPR遺伝子編集技術によるHCM療法の有望な概念実証である。しかし、ヒト患者への臨床展開には、様々な課題を克服する必要がある。いずれの研究も、臨床的な発症後における心筋症の表現型の停止または逆転の実証は示していない。今後、心筋症が発症した後にマウスに適用し、編集効率と表現型の救済を評価し、治療効果に必要な編集閾値の確立、編集結果のモザイクがもたらす不整脈発生などの副作用の評価、ウイルスベクターの大量投与とABEの長期発現の毒性と免疫原性の評価などが進められることを期待したい。特に、Cas9の長期発現の毒性と免疫原性は、AAV CRISPR療法を施した大動物において問題であることが報告されている [crisp_bio 2021]
 
 HCMのような遺伝的に不均一な疾患に対する生体内ゲノム編集には、アデニン塩基エディターについてもシトシン塩基エディター(CBE)に内在する制約、MYH7 p.Arg403Gln変異体以外に複数存在する病因変異ごとに適切に配置されているPAMの制約を意識し、また、それぞれにgRNAを用意する必要があること、バイスタンダー編集やオフターゲット編集の可能性といった、さらなる課題も存在している。
 これらの課題にもかかわらず、塩基エディターには、HCMだけでなく、遺伝子ノックアウトや過剰発現戦略には適さない他の多くの遺伝病に対しても、単回投与による決定的な治療が期待できるため、研究を深めていく価値のあるツールである。
 
[*] Nature Medicine 論文書誌情報
  1. 塩基編集 (ABE)によるヒト心筋細胞およびヒト化マウス生体内における肥大型心筋症(HCM)の救済:"Base editing correction of hypertrophic cardiomyopathy in human cardiomyocytes and humanized mice" Chai AC [..] Olson EN. Nat Med. 2023-02-16. https://doi.org/10.1038/s41591-022-02176-5 [著者所属] UT Southwestern Medical Center;[参考図 Figure 1: In vitro optimization of the ABE system to correct a pathogenic MYH7 variant]
  2. 生体内塩基編集 (ABE)により肥大型心筋症(HCM)からマウスを保護:Liu BE"Efficient in vivo genome editing prevents hypertrophic cardiomyopathy in mice" Reichart D, Newby GA, Wakimoto H [..] Liu DR, Seidman JG, Seidman C. Nat Med 2023-02-16. https://doi.org/10.1038/s41591-022-02190-7 [著者所属] Harvard Medical School,  University Hospital (LMU Munich), Broad Institute of Harvard and MIT, Harvard U, HHMI, Whitehead Institute, MIT, Brigham and Women’s Hospital [参考図 Figure 1. Base editing the pathogenic variant R403Q mediated by injection of dual-AAV9 ABE8e. (右図参照)]
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