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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

- CRISPR10周年 [*]、臨床応用に向けた研究開発が熱を帯びてきた
[出典] "Towards genome editing cure of genetic heart diseases - 10 years after CRISPR things are really heating up" Topol E. Ground Truths 2023-02-20. https://erictopol.substack.com/p/towards-genome-editing-cure-of-genetic
[crisp_bio注] Eric Topolのエッセイの冒頭、各種解説、結びを以下に紹介する
[冒頭]
 Nature Medicine 2月16日刊行の2つの独立した報告 [1]が、500人に1人がかかる遺伝性心疾患の最も一般的な形態である肥大型心筋症(HCM)への単回投与ゲノム編集のアプローチの可能性を示した。同誌の同日付けNews & Views記事 [1]で、ジャーナルの論説委員であるAlanna Strong教授は、多くの不確実性を認めながらも、HCMのゲノム編集の第1相臨床試験を開始するよう呼びかけた。
 つい最近まで、ゲノム編集で心疾患にアプローチするという考えは、実現には手には負えそうもない (formitable) 障害があるとされ、他の疾患へのアプローチに対して、遠い先のこととされてきた。例えば、癌の治療に体外で編集したT細胞を移植する、血液や目の病気の治療に生体へゲノム編集因子を直接注射する、肝疾患をターゲットとして静脈注射するなど、細胞に直接アクセスできる場合に、ゲノム編集が盛んに試みられてきた。
 その中で、2022年11月からのUT SouthwesternのEric Olsonの研究室からの今回の論文 [1]を含めて3つの論文が相次いで発表され、風向きが変わった。昨年11月の最初の報告 [2]は、RNA結合タンパク質モチーフ20(RBM20)の変異をホモ接合体(2コピー)で作成したマウスモデルの拡張型心筋症を対象として、塩基エディター(ABE)を利用することで心機能の救済を実現した。さらに2023年1月には [3]、心臓病の重要なドライバーであるカルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(CAMKIIδ)遺伝子を標的とし、心臓の血液供給を制限・回復させたマウスで、塩基エディター(ABE)を利用することで、心臓障害を予防できることを実証した。今回、同研究室は、ヒト化したマウスモデルで肥大型心筋症を治す可能性を発表した。また、同研究室とは独立に、ハーバード大学のSeidman 研究室も、塩基エディター(ABE)を利用してマウスモデルで肥大型心筋症を予防できることを発表した。このような目覚しい加速的な進歩は、どのようにして可能になったのだろうか?
[解説]
 CRISPRシステムをベースとするゲノム編集ツールの解説(Casヌクレアーゼ, BEs, HDR, PEs)、肥大型心筋症(HCM)に2報告の成果と課題(バイスタンダー編集、オフターゲット編集、モザイク効果)、ゲノム編集因子の標的へのデリバリー(Wang & Doudna, Science 2023 - Fig 3(D))において解決すべき課題が、簡明な図とともに解説されている。また、デリバリーに関しては、とFeng ZhangのSEND (Selective Endogenous eNcapsidation for cellular Delivery)法 [4]とスタートアップ企業Aera (STAT News 2023-02-16)も紹介されている。さらに、ゲノム編集の精度(precision)と正確度(accuracy)に関連してAIの利用 [5]についても触れている。
[結び]
 CRISPR技術関連論文や記事ではすでに数々のHNHやPAMといった略語が説明なしに使われるようになっているし、今回の論説は単純化しすぎたところもあるが、これまでCRISPRにさほど関心をいだいていなかったとしても、この分野は注目するに値する分野である。
 ここに到達するまで十年を要したが、これからの展開は急になると思われる。心臓病、動脈硬化、心臓発作を予防するために、肝臓のPCSK9遺伝子を標的として、LDLコレステロールを十分に抑制する臨床試験がすでに始まっている [6]。これは、心臓そのものをターゲットにするよりも、簡単なことであるが、今や、他の多くの臓器や全身の組織にも生体内ゲノム編集を行う時代への流れが湧きあがろうとしている。科学的にわくわくとする流れであり、いつの日か不治の病の治癒につながる流れかもしれない。

[引用文献と解説crisp_bio記事]

[*]
例えば、"Genome engineering using the CRISPR-Cas9 system" Ran FA, Hsu PD, Wright J, Agarwala V, Scott DA, Zhang F. Nat Protocol. 2013-10-24. https://doi.org/10.1038/nprot.2013.143

[1]
2023-02-20 塩基編集(ABE)による肥大型心筋症(HCM)の治療可能性 (Nature Medicine誌刊行2論文). https://crisp-bio.blog.jp/archives/31613129.html;NEWS & VIEWS "CRISPR gene-editing therapies for hypertrophic cardiomyopathy" Strong A. Nat Med 2023-02-16. https://doi.org/10.1038/s41591-022-02184-5塩基編集 (ABE)によるヒト心筋細胞およびヒト化マウス生体内における肥大型心筋症(HCM)の救済 - "Base editing correction of hypertrophic cardiomyopathy in human cardiomyocytes and humanized mice" Chai AC [..] Olson EN. Nat Med. 2023-02-16. ;生体内塩基編集 (ABE)により肥大型心筋症(HCM)からマウスを保護 "Efficient in vivo genome editing prevents hypertrophic cardiomyopathy in mice" Reichart D, Newby GA, Wakimoto H [..] Liu DR, Seidman JG, Seidman C. Nat Med 2023-02-16.https://doi.org/10.1038/s41591-022-02190-7

[2] 2022-11-29 塩基編集 (ABE)によるRBM20の病原性変異の塩基編集により拡張型心筋症モデルマウスが回復
. https://crisp-bio.blog.jp/archives/30891150.html; "Precise genomic editing of pathogenic mutations in RBM20 rescues dilated cardiomyopathy" Nishiyama T [..] Olson EN. Sci Transl Med 2022-11-23. https://doi.org/10.1126/scitranslmed.ade163

[3] 2023-01-18 塩基編集 (ABE) を介したCaMKIIδの酸化的活性化部位切除による心疾患治療
. https://crisp-bio.blog.jp/archives/31308625.html; "Ablation of CaMKIIδ oxidation by CRISPR-Cas9 base editing as a therapy for cardiac disease" Lebek S [..] Olson EN. Science 2023-01-12. https://doi.org/10.1126/science.ade1105

[4]
 2022-08-17 [展望] SENDによるmRNA送達と遺伝子治療の研究に向けたプロトタイプマウスモデル.  https://crisp-bio.blog.jp/archives/29977173.html ; Perspective “Prototype mouse models for researching SEND-based mRNA delivery and gene therapy” Gurumurthy CB, Quadros RM, Ohtsuka M. Nat Protoc 2022-08-03. https://doi.org/10.1038/s41596-022-00721-7 

[5] 2023-02-22 プライムエディティング(PE)の挿入効率は、配列の特徴とDNA修復因子から予測可能である
. https://crisp-bio.blog.jp/archives/31621351.html; "Prediction of prime editing insertion efficiencies using sequence features and DNA repair determinants" Koeppel J [..] Parts L. Nat Biotechnol 2023-02-16. https://doi.org/10.1038/s41587-023-01678-y 

[6] [20230121更新] 塩基エディター (ABE)による家族性高コレステロール血症治療薬VERVE-101の治験前進
. https://crisp-bio.blog.jp/archives/23442432.html

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