2023-10-14 Nature Communications誌から論文刊行
2023-03-03 bioRxiv 準拠初稿
[出典] "Next-generation CRISPR gene-drive systems using Cas12a nuclease" Juste SS,  Okamoto EM, Feng X,  Lopez del Amo V. bioRxiv 2023-02-20 [preprint]. Nat Commun 2023-10-12. https://doi.org/10.1038/s41467-023-42183-9 [著者所属] UT Health Science Center, UCSD.

 近年、感染症を媒介する昆虫集団をCRISPR-Cas9ヌクレアーゼを利用して制御するCRISPR遺伝子ドライブシステムの研究開発が進んでいる。遺伝子ドライブでは、標的生物集団に望ましい形質を伝播する手法であり、自己増殖性があり遺伝率を偏らせることができる因子を利用して、集団を通じて迅速に普及する。現在のCRISPRベースのジーンドライブは、(i)DNA二本鎖を切断(DSB)するヌクレアーゼであるCas9、(ii)Cas9を標的部位に導くガイドRNA(gRNA)、(iii)切断部位の両側に一致し相同性指向性修復(HDR)を促す二つのホモロジーアーム、の3種類の因子からなる導入遺伝子で構成されている。
 3因子による遺伝子ドライブ遺伝子ドライブ [Wikepediaから引用した右図参照]、Cas9が野生型アレルにDBSを誘導すると [step 1]、遺伝子ドライブを含む染色体をテンプレートとして相同組み換え修復(Homology Directed Repair: HDR)過程でDSBが修復され [step 2]、最終的に元の野生型アレルが遺伝子ドライブに置き換わることで [step 3]、伝播する。集団レベルでは、遺伝子ドライブを帯びた個体が野生型個体と遭遇すると、その後のアレル変換により、メンデル遺伝から超メンデル遺伝へと移行し、集団内に遺伝子ドライブが急速に伝播していく。実際に、CRISPR遺伝子ドライブを導入した蚊は、連続した世代で目的の対立遺伝子をほぼ100%遺伝させることが報告されている。このようにCRISPR遺伝子ドライブは、媒介生物集団の制御を介した感染症抑制のツールとして有用であるが、Cas9ヌクレアーゼの活性ひいては遺伝子ドライブの自己増殖の制御が課題である。
 
 遺伝子ドライブの制御の手法はこれまでに複数提案されている: (i) 遺伝子ドライブの因子であるCas9とgRNAを別々の遺伝子座に配置し、2つの異なる遺伝子導入系統を利用するスプリット型遺伝子ドライブによって、この2つの系統を遺伝子交配によって結合したときに限って遺伝子ドライブが活性化する。しかし、特に蚊のように高い遺伝子導入効率を得ることが困難な生物では、複数の遺伝子導入株の作製が課題になる可能性がある;(ii) 低分子による遺伝子ドライブの制御も試みられたが、このアプローチは、効率の低い改変型Cas9とより複雑な遺伝子回路を必要とした;(iii) その他に、遺伝子ドライブを無効にするカセット [*1]や抗CRSIPRタンパク質による制御 [*2] も提案されたが、これらは、二次的な遺伝子改変生物のリリースおよびそれに伴う規制が課題である。

 著者らは今回、Cas9以外のヌクレアーゼによる打開を試みた。具体的には、幅広い生物種において効率的な遺伝子編集が報告されているCas12aをベースとする遺伝子ドライブを評価した。
 
 Cas12aの活性は温度制御が可能なため、封じ込めのレベルを追加することができる。原理的には、Cas12a遺伝子ドライブは低温では不活性であるが、高温では自己増殖能力を活性化させるはずである。また、Cas12a遺伝子ドライブが機能すれば、Cas9遺伝子ドライブと直交することになり、2つの遺伝子ドライブ因子が同時に拡散するダブルドライブなどの次世代アレンジメントを開発するための新しい道を開くことが期待される。
 
 著者らは、キイロショウジョウバエの温度制御型Cas12a遺伝子ドライブシステムの実現可能性を検討した。まず、キイロショウジョウバエの超メンデル遺伝を促進するCas12a遺伝子ドライブシステムを紹介し、Cas12aが生殖細胞において温度依存的に効率的なHDRを引き起こすことを明らかにした [Fig. 1引用左下図参照]。また、Cas9とCas12を異なる染色体に配置する二重遺伝子ドライブシステムを構築し、2つの独立した遺伝要素が同一生物内で同時に拡散することを実証した [Fig. 2 の一部 (a/b)引用右下図参照]。
GD Cas12a 1   GD Cas12a 2
 本研究は、Cas12aを用いた昆虫初の遺伝子ドライブシステムを提示するとともに、疾患ベクターや農業害虫を制御するための新規遺伝子ドライブ開発の新しい可能性をもたらすものである。

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