[出典] "De novo design of luciferases using deep learning" Yeh AH, Norn C [..] Baker D. Nature 2023-02-22. https://doi.org/10.1038/s41586-023-05696-3 [著者所属] U Washington, US Santa Cruz, UCLA, Xi'an Jiaotong U;News Release "Artificial intelligence conjures proteins that speed up chemical reactions" EurekAlert! 2-23-02-22. https://www.eurekalert.org/news-releases/980597
 酵素のデノボ設計はこれまで、目的の反応を触媒すると予測される活性部位や基質が結合可能なポケットを、幾何学的に適合するネイディブな足場に導入することを目指して来たが、このアプローチには、既知のタンパク質の中には適切な構造が存在しいことや、タンパク質の配列と構造の関係が複雑であることによって、限界があった。David Bakerの研究チームは今回、深層学習を利用して、多様な形状のポケットを含む理想化されたタンパク質構造とそれをコードするタンパク質配列を大量に生成する ‘family-wide hallucination’ [以下、FWH]のアプローチと、それによる酵素のデノボ設計を、報告した。
 デノボ設計の標的はルシフェラーゼを選択した。ルシフェラーゼによるルシフェリン基質の酵素酸化によって生じる生物発光は、バイオメディカル研究においてバイオアッセイやイメージングに広く利用されている。ルシフェラーゼは励起光源を必要としないため、暗闇で発光光子が生成される。このため、生きた動物モデルや自家蛍光や光毒性が懸念される生体試料において、蛍光イメージングよりも高い感度を得ることができる。酵素の標的となる基質としては、高い量子収率、赤方偏移発光、良好な生体内薬物動態、発光に必要な補酵素が無い、合成ルシフェリンであるジフェニルテラジン(DTZ)を選択した。DTZ結合に適したポケットを持つ足場となりえる既知の構造は存在しない。
  • FWHは、先行研究で開発して来た制約の無いデノボ設計 [*1, *2]とRosetta配列設計 [*3]のアプローチを統合した深層学習に基づいて開発し、目的とするフォールドをするタンパク質を、実質的に、無限に生成可能にした。
  • FWHを利用して生成した多様かつ多数の足場を利用して、ルシフェリンの基質であるジフェニルテラジン (DTZ) および2-デオキセレンテラジン (2-deoxycoelenterazine) の酸化的化学発光を選択的に触媒する人工ルシフェラーゼを設計した。設計した活性部位は、アルギニンのグアニジニウム基と反応中に生成するアニオンが高い形状相補性を持つ結合ポケットに隣接して配置されている。
  • 2種類のルシフェリン基質に対して、最も活性が高いのは、小型(13.9 kDa)で高温で活性な(融解温度が95℃以上)酵素であり、DTZに対する触媒効率(kcat/Km = 106 M-1 s-1)はネイティブなルシフェラーゼと同等だが、基質特異性が非常に高いことが特徴であった。
 高活性かつ特異的な生体触媒をゼロから創製し、生物医学に広く応用することは、計算機酵素設計の重要なマイルストーンであり、このアプローチにより、様々なルシフェラーゼや他の酵素の創製が可能になると期待される。

 [*]
  1. "De novo protein design by deep network hallucination" Anishchenko I, Pellock SJ [..] Baker D. Nature 2021-12-01. https://doi.org/10.1038/s41586-021-04184-w
  2. "Scaffolding protein functional sites using deep learning" Wang J, Lisanza S, Juergen's D, Tischer D, Watson J [..] Baker D. Science 2022-07-21. https://doi.org/10.1126/science.abn2100
  3. "Protein sequence design by conformational landscape optimization" Non C, Wicky BIM [..] Baker D, Ovchinnikov S. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021-03-16. https://doi.org/10.1073/pnas.2017228118