[注] PPI (protein–protein interactions/蛋白質間相互作用)
[出典] "Engineering of bidirectional, cyanobacteriochrome-based light-inducible dimers (BICYCL)s" Jang J, Tang K [..] Zurbriggen MD, Uppalapati M, Woolley GA. Nat Methods 2023-02-23. https://doi.org/10.1038/s41592-023-01764-8 [著者所属] U Toronto, Heinrich-Heine-Universität, U Saskatchewan, CEPLAS – Cluster of Excellence on Plant Science;博士論文 "Steps Toward Multichromatic Optogenetic Control with Cyanobacteriochromes" Jang J. U Toronto. 2022. https://tspace.library.utoronto.ca/bitstream/1807/125469/3/Jang_Jaewan_202211_PhD_thesis.pdf;News & Views "Controlling cellular activities with light" Wu YW. Nat Methods 2023-02-23. https://doi.org/10.1038/s41592-022-01745-3 [著者所属] Umeå University
光遺伝学のツールによって、生物学的プロセスの基盤であるPPIsの時空間制御が可能になった。その中核に位置するのが、光に応答してその構造を変化させるタンパク質(光スイッチタンパク質/photoswitchable proteins)である。これまでの光遺伝学ツールは主として青色光に応答する光スイッチタンパク質に依存し、一部が赤色光に応答する光スイッチタンパク質に依存している。複数のPPIsを互いに独立に制御可能とする多色制御(multicolor control)には、青色光以外の光に特異的かつ感度よく応答する光スイッチタンパク質が必要である。カナダとドイツの研究チームは今回、シアノバクテリア(Acaryochloris marina )に特有なフィトクロム様光受容体タンパク質であるシアノバクテリオクロム(cyanobacteriochromes: CBCR )を利用することで、緑色光に応答する光スイッチを開発した。
CBCRのGAFドメイン変異体は、比類なく多彩な光(可視域全域)に応答するが、その天然の分子機構の光遺伝学的制御に利用することは容易でなかった。
- 著者らは、まず、赤/緑 GAFドメインから赤色光吸収状態と緑色光吸収状態の2状態の間でスイッチするより小型の単量体変異体を誘導しAmg2と命名した。続いて、光に依存してAmg2の2状態とそれぞれ相互作用する因子(light-dependent interactors)BAmRedとBAmGreenを、指向性進化法を利用して創製することで、双方向性の光誘導型二量体(bidirectional, cyanobacteriochrome-based light-inducible dimers: BICYCL)を構成するに至った。
- BICYCLは、PPIを制御する最小の光遺伝学的因子であり、最大800倍の状態選択性で、赤-ON/緑-OFF(BICYCL-Green)または緑-ON/赤-OFF(BICYCL-Red)の制御を実現する。BICYCL-Greenは、赤色光でAmg2とBAmGreenを結合させて、転写活性化ドメインを介して関心のある遺伝子(GOI)を活性化し、緑色光で解離させてGOIを不活性化する双方向性スイッチとして機能し、BICYCL-Redは、緑色光でAmg2とBAmRedが結合してGOIを活性化し、赤色光で解離してGOIを不活性化するスイッチとして機能する [News & VIews Fig. 1 参照]。
- BICYCLの双方向性スイッチングは、局所的な活性化光と全体的な不活性化光を組み合わせた場合に、優れた空間制御を可能にする。
- 著者らは、BICYCLと光・酸素・電圧(LOV)タンパク質に基づく青色光光遺伝学ツールとの多重化を試み、タンパク質局在化や複数の遺伝子の発現制御が可能なことを実証した。
こうして、緑色の波長への応答を可能にしたBICYCLは、既存の光遺伝学的ツールと組み合わせる多重化に新たな展開をもたらすことが期待されるが、News & Viewsでは、BICYCLの課題も論じている。
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