[出典] NEWS "Beyond CRISPR babies: How human genome editing is moving on after scandal" Ledford H. Nature 2023-03-02. https://doi.org/10.1038/d41586-023-00625-w
 3月6日から8日の間、「第3回ヒトゲノム編集に関する国際サミット/Third International Summit ion Human Genome Editing」が、ロンドンで開催される。遺伝性疾患の治療にCRISPR-Cas9などの技術を展開する際の最新の進歩について議論するが、今年後半には最初のゲノム編集治療が承認される可能性を見据えてのことになろう(look ahead to)。
 
[技術的側面]
 2018年以来、生殖を前提とするヒト胚を改変するゲノム編集の技術的側面は、現在に至るまで、根本的な変化はおこっていない。CRISPR-Cas9が、標的以外の部位を改変するいわゆるオフターゲット編集以外に、染色体の大部分をシャッフルするリスクを伴うことをはじめとする課題が明らかになり「ゲノム編集技術をヒトの胚に使用するのは時期尚早」という科学的コンセンサスが広く共有されている。
 一方で、COVID-19パンデミックの中で、脂質ナノ粒子を介してmRNAワクチンを送達する技術が確立され実用になったことは、RNA医薬による遺伝子発現調節を介した医療の実現可能性を示した。 

[規制]
 多くの国々で、ゲノム編集を加えた胚の移植の抑止を保証する規制が整っていない。特に、「病院や研究機関、大学を拠点とする従来の医学研究のモデル」を超えたところでの実践を抑止する規制が整っていいない。また、今後、政府など公的機関からの研究費の使途制限は、抑止効果を失っていくだろう。例えば、2018年スキャンダルを引き起こした賀建奎は中国当局から刑期を終えて釈放された後、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療の新プロジェクトを支援するため、個人投資家にアプローチしている。
 さらに、各国ごとの規制があったとしても、国際的なコンセンサスが必ずしもとられないままになる状況も危惧される。

[コストと公平性]
 11月に米国FDAが2022年11月に認可した血友病の遺伝子治療の価格は1回あたり350万米ドルであった。ヒト胚ゲノム編集に限らず、現在、100件を超える臨床試験が進めらている体細胞ゲノム編集による治療の価格も極めて高価になることが容易に想定できる。
 米国、英国、EUの規制当局が、 Vertex Pharmaceuticals社とCRISPR Therapeutics社による鎌状赤血球症に対するCRISPR-Cas9療法の承認申請について、慎重に検討している中で、この治療法に対する低・中所得国でのアクセスを確保する方法に関するいくつかのセッションが予定されている。この治療法は、承認された最初のゲノム編集療法となる可能性があるが、塩基エディター (BE)やプライムエディター (PE)の臨床応用を目指している研究者も、その費用がどれくらいになるのか、不安視している。

[ヒトの多様性と公平性]
 ゲノム編集技術は、特定のDNA配列にカスタマイズされる必要があるが、欧州系以外の人々のDNA配列に関するデータが乏しいことから、欧州系の人々のゲノムデータに基づいて開発されるゲノム編集療法には汎用性を欠いている可能性がある。

[低・中所得国でのゲノム編集医療へのアクセスが容易になる可能性]
 COVID-19パンテミックの中で、いわゆるグローバル・サウスにおけるワクチン製造能力が拡充されたことは、ゲノム編集療法へのアクセスを容易にすることに貢献するだろう。