[出典] "Functional diversity of the TP53 mutome revealed by saturating CRISPR mutagenesis" Funk J, Klimovich M [..] Stew T. bioRxiv 2023-03-10 (preprint). https://doi.org/10.1101/2023.03.10.531074 [著者所属] Philipps U (Marburg), Johann Wolfgang Goethe U, Buchmann Institute for Molecular Life Sciences and Structural Genomics Consortium (SGC), Justus Liebig U, Universities of Giessen and Marburg Lung Center.
癌抑制遺伝子であるTP53 は、様々な癌において最も頻繁に変異する遺伝子である。TP53 の変異は他の癌抑制遺伝子とは異なり、ほとんどがミスセンス変異であるが、そのうちの2,000以上が癌患者にて確認されている。変異型TP53 に由来するp53タンパク質変異体の機能がさまざまであることから、特定の遺伝子変異とタンパク質変異体の機能との関係を深く理解する必要がある。ドイツの研究グループが今回、TP53 の機能ゲノミクスとして、癌細胞の内因性TP53 遺伝子座から発現する9,225個の変異体について、CRISPRを用いた飽和変異誘発スクリーニングを実行した [Fig. 1 a引用左下図とFig. 2 a引用右下図を参照]。
- p53パスウエイに対する特定の刺激に応答する個々の変異体の存在量の変化を追跡することにより、癌関連ミスセンス変異の94.5%をカバーするTP53変異体の高解像度機能活性マップを構築した。
- 個々の変異が腫瘍細胞の適応力(フィットネス)に与える影響を、これまでにない精度と網羅性で実証し、アポトーシスなどの基礎的なメカニズムも明らかにした。
- 高い識別力により、微妙な機能喪失と表現型との対応関係も明らかになり、薬理学的再活性化のターゲットとして特に有望な変異体のサブセットも同定した。
- このデータは、ナンセンス、フレームシフト、スプライス・サイト変異だけでなく、ミスセンスや同義置換による切断タンパク質の除去における異常なスプライシングとナンセンスを介したmRNA崩壊の役割について興味深い洞察を与えている。
- スプライシング異常やナンセンス変異依存mRNA分解(Nonsense-mediated mRNA decay: NMD)が、ナンセンス、フレームシフト、およびスプライス・サイトの変異だけでなく、ミスセンスや同義置換による短縮型変異タンパク質の生成において果たす役割も明らかにした。
- 意外なことに、癌患者に見られていたミスセンス変異が、ヌル変異に比べて直ちに増殖の利点をもたらすことが無いことを発見した。一方で、ヌル変異ではなくミスセンス変異を帯びた細胞は、マウスで長期間増殖した後、転移促進特性を獲得した。このことは、転移に向かう腫瘍の進行において、変異p53が方向付けるクローン進化が重要な事象であることを示唆している。
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