我々が遺伝性 (heritable) ゲノム編集が社会および倫理に意味するところを喧々諤々と議論している一方で、我々は未だその技術的障壁に囲まれている
[出典] NEWS "Why CRISPR babies are still too risky — embryo studies highlight challenges" Ledford H (senior reporter). Nature 2023-03-10. https://doi.org/10.1038/d41586-023-00756-0
 第3回ヒトゲノム編集に関する国際サミット/Third International Summit ion Human Genome Editing Editingの主催者は、最終日の声明で「遺伝性ヒトゲノム編集は、現時点ではまだ受け入れがたい」、「遺伝性ヒトゲノム編集の安全性と有効性に関する前臨床エビデンスは確立されておらず、社会的な議論や政策論争も終結していない」と表明した。
 サミットでは胚または配偶子と呼ばれる生殖細胞のゲノムに、遺伝性(将来の世代に受け継がれるような形の)改変を加えることについて、胚のゲノム編集に必要なDNA二重鎖切断(DSB)からの修復結果が不確実であることに始まり、技術的・科学的課題に焦点を当てた講演が多く行われた。
 これまでに一部の研究者は、遺伝性ゲノム編集を行うことで、遺伝性疾患を持つ人がその疾患を子供に受け継がないようにすることができると主張しているが、必ずしもそうではない。確かに、遺伝子編集後の生殖細胞をベースとする体外受精を行い、得られた胚を特定の遺伝性疾患について検査することは可能であるが、夫婦のすべての受精卵が遺伝性疾患を受け継ぐことが避けられないことや、利用可能なすべての受精卵が偶然にも原因遺伝子変異を持っていることが、起こり得るからである。また、サミットにおいて、サミットまでに指摘されてきたヒト胚のCRISPR遺伝子編集は染色体の大混乱を引き起こすことが報告された。DSBが不要なCRISPRゲノム編集ツール、塩基エディター(BE)やプライム編集 (PE) が開発されているが、CRISPR-Cas9をベースとするツールほど徹底的に研究され最適化されたとはいえず、BEの一種であるABEによるゲノム編集によりアカゲザルで不要なRNA改変が発生したという報告もある。あるいは、胚をゲノム編集するアプローチから卵子や精子などの配偶子や幹細胞をゲノム編集するアプローチも考えらるが、生殖を目的とするヒトの細胞でこれを行うには、やはりまだ課題が残されている。こうした技術的・科学的課題に加え、主催者は「遺伝性のヒトゲノム編集を責任を持って使用するためのガバナンスの枠組みや倫理的原則は整っていない」と述べている。
 サミットの組織委員会委員長を務めたロンドンのFrancis Crick研究所の発生生物学者Robin Lovell-Badgeは、「私たちは研究をぜひ進めたい」「しかし、それと同時に、この技術が果たして実際に使われることがあるのだろうか、もっと議論を深める必要がある」と語った。
 
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