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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Project Next Gen: The United States Gets Serious for New Covid Vaccines" Eric Topol. Ground Truths. 2023-4-11. https://erictopol.substack.com/p/project-next-gen-the-united-states
 これまでこうした政策を強く主張していたEric Topolは、"Project Next Gen"を「この政策はSARS-CoV-2のワクチンと治療法の開発促進を目指した"Operation Warp Speed"の~180億ドルには及ばないが、従来のワクチンよりも防衛力が高くかつ時間的にも変異に対しても耐久性が高い経鼻かつ汎-コロナウイルスワクチン、ならびに、ファイザーの飲み薬パクスロビドを超えるモノクローナル抗体と経口薬の開発を加速するだろう」と歓迎し、何故"Project Next Gen"が必要かを解説している。
1. 筋肉注射のワクチンでは誘導できない粘膜免疫を誘導する経鼻または経口ワクチン
 空気感染するコロナウイルスに対しては、経鼻または経口で投与することで上気道粘膜における局所的免疫を誘導することが効果的である。筋肉注射後の経鼻ワクチンをブースターとして投与する効果はYale大学の岩崎明子らの研究チームがモデル動物で実証し、また、インドのBharat Biotechがランダム化試験を開始している。その後、Freie Universität BerlinのJakob Trimpertが率いる研究チームが、経鼻ワクチンが筋肉注射ワクチンに優るとする報告をNatureから発表した [Nature 2023-04-03]。さらに、多くの経鼻ワクチンの第3相試験が完了に近づいている。しかし、米国ではこうした試験にまだ着手されていない。
2. Project NextGen新たな変異株に備える汎コロナウイルスワクチン
 これから2年間に、ワクチン、ブースター、感染およびそれらの組み合わせで構築した免疫が、無効になるような新たな変異系統が出現するシナリオが複数が予測されていることから、ウイルスのスパイクタンパク質だけでなく定常領域にも注目したアプローチ、強力な広域中和抗体の標的になりうるエピトープの探索などをベースに、汎コロナウイルスワクチンの開発が望まれる [挿入図は、出典から引用した一連の関連論文のリスト]。
3. 免疫不全患者を守る
 もはや有効なモノクローナル抗体薬は存在せず、また、現時点で唯一有効な抗ウイルス薬パクスロビドに対しては耐性株が出現するリスクが存在する。免疫応答が最適または完全な状態ではない人々を守る手段が必要である。
4. ロングCOVIDの治療や予防の戦略を立てるためにしろ、あるいは、新興病原体によるパンデミックに備えるためにしろ、COVIDに対抗する科学的進歩は全て、有用である。
 
 Project NextGenは、たまたま実現したわけではない。Ashish Jha博士を中心とするホワイトハウス対策チーム(White House Response Team) が、まず議会での予算認可を試み、その後、米国保健福祉省の割り当てを受けることに成功するまでには、何ヶ月も要した。また、バイデン大統領がその必要性と優先順位を支持することも必要であった。

 Eric Topolは、「これが実現したことに感激している。もちろん、1、2年前に着手していればよかったのだが、これで、次世代のワクチンや治療法のための科学基盤が構築されつつある。このプログラムと資金が適切に執行されれば、将来の感染症に向けてよりよく備えることが可能になる」と締めくくっている。

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