2024-04-23 Cell 誌から出版された論文の書誌情報を追記
2023-04-18 bioRxiv 投稿に準拠した初稿
[出典] "Chromatin context-dependent regulation and epigenetic manipulation of prime editing" Li X [..] Shendure J.
(bioRxiv 2024-04-12). Cell 2024-04-05. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.03.020 [著者所属] U Washington Seattle, HHMI, Brotman Baty Institute for Precision Medicine, Allen Discovery Center for Cell Lineage Tracing, Seattle Hub for Synthetic Biology

 PEは、DNA二本鎖切断 (DSB) を介さずに、特定の部位における精密な遺伝子編集を可能にしたが、編集の効率がCas9ヌクレアーゼに及ばず、また、標的部位によって大きく変動することが知られている。ワシントン大学 (シアトル) の研究チームは今回初めて、PEとシス-クロマチンのコンテクストとの間の関係性を明らかにした。

 はじめに、染色体にクロマチン"センサー"として機能するレポーター (バーコード配列を伴う合成HEK3配列 (synHEK3) ) をランダムに挿入し、T7 RNAポリメラーゼによる生体内転写反応を利用して、レポーターの挿入位置のマップを作成した。挿入部位を帯びたRNAは、逆転写・増幅を経て配列が決定される。

 次に、一連のレポーターのセットを利用して、クロマチン領域にわたるPEの効率を測定した結果、内因性HEK3遺伝子座の編集効率が~15%であったのに対して、クロマチン領域内の編集効率が部位によって大きく左右されるこことを確認した。すなわた、PEが全く進行しない部位が多数存在する一方で、効率94%に達する部位も見られた。

 続いて、ENCODEプロジェクト からのエピゲノム・データセットを利用して、PEの効率の高さの指標として、転写が活性化している遺伝子の下流に豊富に見られるヒストンマークH3K79me2が最適であることを同定した。

 このH3K79me2のゲノム上での分布の情報を参照することで、PEの編集効率と、遺伝子内の転写開始点 (TSS) からPEの標的部位までの距離とが、逆相関することを見出し、さらに、クロマチンの特徴からPEの編集効率を予測する回帰モデルを構築し、編集効率の変動が、高発現する遺伝子ほど顕著なる傾向を見出した。

 Cas9ヌクレアーゼについても、同じレポーターのセットを利用して編集効率のクロマチン領域依存性をみたところ、PEの活性が主としてTSSの下流域に限定されるのに対して、Cas9が活性を示す部位は、TSSの上流域にも下流域にも存在することを見出した。

 このようなPEの編集効率の変動は、PE複合体の部位特異的なクロマチン・アクセシビリティとDNA損傷応答 (DDR) の複合効果であると考えらることから、研究チームは次に、機能的ゲノムスクリーニングを用いて、クロマチン・コンテクストに依存するPEの制御機序を明らかにすることを目指した。

 近年、ハイスループットな遺伝子スクリーニングを含む、DDR遺伝子に焦点を当てたいくつかのスクリーニングがPEを対象として行われ、このプロセスにおける細胞内在ミスマッチ修復 (MMR) 経路が重要な役割が果たしていることが示された [*1]。. しかし、これらの研究はいずれも、DDR経路の摂動に対する細胞応答の調節における局所クロマチン環境の役割、すなわち、トランス作用するDDR因子とシス・クロマチン環境との交差を明らかにするためにデザインされたものではなかった。

 研究チームはそこで、単一細胞の転写プロファイリングのための極めてスケーラブルな方法(sci-RNA-seq3) [*2] に基づいて、プール型遺伝子スクリーニングを行った。T7 in situ 転写(IST)反応を組み込むことで、sci-RNA-seq3法を再利用し、ゲノム全体にあらかじめ組み込まれたレポーターでPEの結果をプロファイリングした。この結果、74種類のDDR関連遺伝子に対するshRNAライブラリーが、位置が定義された50種類の合成PEレポーターに与える影響のプロファイルが得られ、PEの結果を制御するクロマチン・コンテクスト依存的役割を果たす因子を特定することに成功した。

 最後に、PEの編集結果が局所的なクロマチン環境に大きく影響されるため、まずターゲット領域のエピゲノムを編集することでPEの効率を調節できる可能性を探った。最近開発されたエピジェネティック・リプログラミングツールであるCRISPRoff [*3]を活用し、遺伝子内ターゲットのPE効率が、それが存在する遺伝子のエピジェネティックサイレンシング後に低下することを発見し、転写活性とPE編集の産物との関連性をさらに裏付けた。また、この観察に基づき、スクリーンショット 2024-04-23 15.16.35内在性ゲノム配列にPEを加える前に、CRISPRaで一時的に遺伝子を活性化することで、編集効率が劇的に向上することを示し、治療に役立つ可能性がある新たなPE利用法を提示した。

[注] 上記の研究成果がグラフィカルアブストラクト (右図参照) にまとめられている。
 
[*] 関連crisp_bio記事
  1. [20220321更新] PE4/PE5: プライム・エディティングの効率と忠実度が,ミスマッチ修復過程の阻害によって,目覚ましく向上する. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27581421.html;"Optimized single-nucleus transcriptional profiling by combinatorial indexing" Martin BK [..] Shendure M. Nat. Protoc. https://doi.org/10.1038/s41596-022-00752-0
  2. [20210430更新] DNAメチル化を自在に書き換えるCRISPRoffとCRISPRon. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26079376.html
  3. 2021-01-21 [レビュー] CIRPSRシステムによるエピゲノム操作ツールの現状と応用 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25292006.html