[出典] "New diabetes post-acute Covid (PASC, Long Covid), an inconvenient truth" Eric Topol. 2023-04-19. https://erictopol.substack.com/p/new-diabetes-post-acute-covid-pasc
 COVID-19感染後1ヶ月以上経過してからの糖尿病 (特に2型) 発症が報告されたのは2020年のことであった。この報告は疑問視されてきたが、スクリーンショット 2023-04-21 12.17.132023年4月18日に、COVID-19後遺症における糖尿病のリスクを報告する12報目がJAMA Network Openから発表された [JAMA Netw Open 2023]。Eric Topolが12報の結果をまとめた表 (右図参照) によると、解析対象となった集団の年齢と男女比がさまざまであり、リスクも17% ~ 97%とかなり分散している。しかし、COVID-19感染による糖尿病リスクの有意な上昇が見られなかったのは、表の上から7番目のVeteran Affairsコホートの中の女性の集団一例だけである。また、今回のJAMA Network Openの報告以前のレビュー [Diabtes Res Clin Pract, 2022-12-07]では、COVID-19による糖尿病リスク上昇は11% ~ 276%とされていた。その他のメタ解析からも50% ~ 66% のリスク上昇とされている。また、Veteran Affairsコホートの解析からは複数回感染によって2型糖尿病発症リスクが高まると報告されている。一方で、ワクチン接種により、COVID-19に伴う糖尿病リスクが低減するという報告もされている [JAMA Netw Open 2023-02-01]。COVID-19に伴うう糖尿病発症リスクやグルコース調節不全が長期間続くのかは現時点では不明である。児童の1型糖尿病リスクについては、成人コホートの解析結果ほど整合した報告にはなっていないが、米国、ノルウエイ、スコットランド、およびドイツからの報告では、COVID-19感染によって発症リスクが高まるとされている。
 なぜ、呼吸器から感染が始まるとされるCOVID-19が糖尿病リスクを高めるのか?SARS-CoV-2はヒトの肺だけでなく全ての器官に向性 (toropism) を示すことが明らかになっている。ヒト膵臓の膵島β細胞はSARS-CoV-2が感染する際の手がかりとなるACE2やTMPRSS2を発現しており、ヒト膵島の培養や死後の組織解析から、SARS-CoV-2に感染することも証明されている。さらに、糖尿病は、SARS-CoV-2感染によるβ細胞の損傷や細胞死が進行しなくても、膵島の炎症やβ細胞の疲弊によって発症する。こうした経路以外にも、SARS-CoV-2に感染した脂肪細胞においてアディポネクチンの分泌が低減してインスリン抵抗性が発生する経路や、自己免疫応答の経路を介した糖尿病リスクの上昇も考えられる。
 なお、COVID-19後遺症において、糖尿病は、他のCOVID-19後遺症の症状が見られなくても発症するリスクがある。 

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