[出典] "Top-down design of protein architectures with reinforcement learning" Lutz ID, Wang S, Norn C [..] Baker D. Science 2023-04-20. https://doi.org/10.1126/science.adf6591 [著者所属] U Washington, HHMI, BioInnovation Institute (Copenhagen), Westlake U (China), Seoul National U
進化の過程における選択の結果、自然界に存在するタンパク質集合体のサブユニットは、しばしば、互いにかなりの形状の相補性を介して、現在の設計アプローチでは達成できない、特定の機能に最適なアーキテクチャが残ってきている。一方で、デノボでのタンパク質設計はこれまでモノマーから対称的オリゴマーを形成することから順次組み上げていくボトムアップで行われており、特定の機能に向けて全体のアーキテクチャーを直接最適化することは不可能な課題である。
この課題を解決するために、David Bakerの研究チームは今回、モンテカルロ木探索 (Monte Carlo tree search; MCTS) を用いて、あらかじめ設定した全体的なアーキテクチャと特性の制約中で、タンパク質のコンフォーマーをサンプリングする「トップダウン」強化学習ベースの設計アプローチを試行した。例えば、全体的なアーキテクチャーの対称性や多孔性などの制約の中で、サブユニットを組み上げていく [ボトムアップとトップダウンのアプローチの比較についてFig. 1参照]。
フラグメントアッセンブリー法 [PNAS 2023] により多様なモノマータンパク質構造を生成し、フラグメントを組み上げていく各ステップにおいて、SWING [Science 2016]のように各ステップごとにモノマーの安定性を最適化するのではなく、モノマーの安定性と、サブユニット間の相互作用の強さやその他の特性とのトレードオフを分析しながら、目的にあわせた全体構造の最適化を目指した。この最終状態の最適化を実現するため、強化学習 (reinforcement learning; RL) を採用した。RLは、自動車の自動運転、AlphaGo, およびアルゴリズム開発などにかかわるAIの分野で成果を出してきた。MCTSは、RLアルゴリズムの一種であり、探索木の中で、一連の最適な選択を発見可能とする。MCTSにおいては、探索木を下がっていく中で、各分岐においてランダムに枝が選択され探索のパスを定めそのパスからの最終状態を評価し、バックプロパゲーションをすることを繰り返して最適パスを発見する。
このトップダウンのアプローチで作出した円盤上のナノポアと超小型正20面体のクライオ電顕構造は、計算モデルに非常に近いものであった。また、この正20面体は、免疫原やシグナル伝達分子を非常に高密度に表示することができ、ワクチン反応や血管新生誘導を促進させた。
[構造情報] 2023-04-21時点で公開待ち
・正二十面体カプシド RC_I_1 PDB 8F54/EMD-28860
・正二十面体カプシド RC_I_2 PDB 8F53/EMD-28858
・正二十面体カプシド RC_I_1-H11 PDB 8F4X/EMD-28859
・ナノポア RNR_C6_3 EMD-29939
今回紹介したアプローチは、望ましい特性を持つ複雑なタンパク質ナノ材料のトップダウン設計を可能にし、タンパク質設計における強化学習の力を実証した。
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