[出典] News "Microbiome-friendly phages join the campaign for better antimicrobials" Johnson B. (Editor) Nat Biotechnol 2023-04-17. https://doi.org/10.1038/s41587-023-01732-9
一連のバイテク企業が薬剤耐性菌に対して、自然界のファージまたはCRISPR-Cas9で加工したファージを利用した戦略で立ち向かおうと競っている。ビッグ・ファーマ製薬企業と投資家はまだ様子見のところがあるが、特に、多剤耐性細菌に対して、ファージ療法を支持するエビデンスが蓄積されてきている。
イスラエルのBiomX (Ness Ziona) は、緑膿菌に感染した嚢胞性線維症 (CF) 患者のファージ療法BX004の第2相試験に750万ドルを投じると発表した。米国のArmata Pharmaceuticalsも、緑膿菌感染CF患者のファージカクテル吸入療法も第2相試験の計画を発表した。同じく米国のAdaptive Phage Therapeuticsは、CF患者の緑膿菌を標的とするファージ療法の第1b/2臨床試験を進めている。ここの特徴は、各患者から分離した細菌と、Walter Reed Army Institute of Research and the US Navy Biological Defense Research Directorateが構築してきたファージライブラリーとを突き合わせながら、個別化ファージ療法を目指している点である。
ファージの特徴は、感染対象に対する特異度が高く、ヒトの細胞や、病原菌以外の細菌に感染しないところにある。また、CRISPR-Casを利用して、薬剤耐性細菌を特異的に標的とするペイロードを送達する試みも進んでいる。実は、2014年にはすでに、Duportetらが [*1]、黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureu )に自然感染する ΦNM1ファージを加工してメチシリン耐性遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9を送達することで、メチシリン耐性緑膿菌 (methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA) だけを特異的に殺傷可能なことを発表していた。
フランスのEligo Bioscienceは、特定の細菌に特異的であり、また、最近のDNA二本鎖を切断するCRISPR-Casシステムを送達するファージ療法を、"microbiome gene therapy"として研究開発を進めている。具体的に、Cutibacterium acnes によって発症する尋常性痤瘡のファージ療法において、ヒトの皮膚に益のあるC. acnes は維持しつつ、皮膚に炎症を引き起こすペプチドを生産するC. acnesだけを狙い撃ちするファージ療法EB005の臨床試験を計画している。また、重度の下痢を引き起こす志賀毒素を生産する大腸菌のSTx志賀毒素遺伝子を狙い撃つファージ療法EB003の前臨床結果を発表している。この場合、病原性大腸菌を殺傷すると志賀毒素が放出されるため、従来型の抗生物質は適用できない。スイスのSBIPR Biomeは、致死的な大腸菌を特異的に標的とするゲノム改変ファージ療法SBIPR001の研究開発資金の調達に成功している。
BiomXの共同設立者であり、ワイツマン研究所の免疫部門長かつドイツ癌研究センター (DKFZ))のマイクロバイオー・癌部門長であるEran Elinavは、2022年に8月に炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Diseass; IBD)に関与する細菌 (Klebsiella pneumoniae) を同定し、続いて、K. pneumoniaeを殺傷するファージを患者由来のサンプルから発見し[*2]、その安全性の試験を開始していた。BiomXと協力関係にあるドイツのBoehringer Ingelheimは、メタゲノミクスとAIによるIBDの微生物シグナチャーの同定を試みている。また、BiomXに加えてArmataも、黄色ブドウ球菌を標的とするファージを同定し、いずれも臨床試験を進めている。
遺伝的に改変したファージは、癌療法としても有望である。Fusobacterium nucleatum は癌に有利な環境を生成し、大腸癌患者のバイプシー・サンプルの80%以上に見られる。BiomXはここでも、抗生物質や糞便移植療法と異なって、ヒトにとって有益な微生物叢を破壊することなく、問題となる菌を特異的に抑制または除去する分子を送達するファージ療法を試みている。
米国の Intralytixは2016年に、Listeria monocytogenesを標的とするファージ・カクテルについて、FDAの承認を得ていたが、Shigellaを標的とする第1/2相治験と、バイコマイシン耐性EnterococcusとE. coliの感染に対するファージ療法の治験を始めようとしている。
病原細菌や癌に対するファージ療法は、標的の特定に向けてゆっくりと成熟しつつある段階であり、アプローチの王道はまだ見えてきていない。記事は、スタンフォード大学Bioengineering and Microbiology & Immunology部門のMichael Fischbachの、“We should expect more messiness before the cleanliness comes.”の引用で結ばれている。
[関連crisp_bio記事と論文]
- [crisp_bio] CRISPR-Casヌクレアーゼを設計して、ゲノム配列特異的に機能し、抗生物質耐性菌にも有効な抗菌剤を創出する.
- "Targeted suppression of human IBD-associated gut microbiota commensals by phage consortia for treatment of intestinal inflammation" Federici S. Kredo-Russo S, Valdés-Mas R, Kvioatcovsky D [..] Rlinav E. Cell 2022-08-04.
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