crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2025-06-12 初稿で紹介したNature Biotechnology 誌刊行論文の共著に研究者が入っていたSNIPR BIOME社が、SNIPR001の第Ib相試験において、最初の患者への投与を開始したことを発表した。

 この第Ib相試験(NCT06938867)は、造血がん患者24名を対象 [*]に、経口投与SNIPR001の安全性、忍容性、薬物動態、および薬力学を評価する無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、米国8施設で実施されている。
[*] 
造血幹細胞移植(HSCT)を受け、フルオロキノロン耐性(FQR)大腸菌が定着した血液がん患者における大腸菌血流感染症の予防を目的としている。

 SNIPR001は、CRISPR-Cas遺伝子編集技術とファージを組み合わせて、有益な腸内細菌叢を保護しつつ病原性大腸菌を選択的に除去する戦略を実装した治療薬であり、脆弱ながん患者における薬剤耐性感染症の予防というアンメットニーズを満たすことを目的として開発されている。

[出典] PRESS RELEASE "SNIPR BIOME Announces First Patient Dosed in its Phase 1b Clinical Trial of SNIPR001 in Patients with Hematological Cancer" SNIPR Biome 2025-06-12. https://www.globenewswire.com/news-release/2025/06/12/3098051/0/en/SNIPR-BIOME-Announces-First-Patient-Dosed-in-its-Phase-1b-Clinical-Trial-of-SNIPR001-in-Patients-with-Hematological-Cancer.html

2023-05-10 初稿
[出典] "Engineered phage with antibacterial CRISPR-Cas selectively reduce E. coli burden in mice" Gencay YE, Jasinskytė D, Robert C, Semsey S, Martínez V, Petersen AØ [..] Sommer MOA. Nat Biotechnol 2-023-05-04. https://doi.org/10.1038/s41587-023-01759-y [著者所属] SNIPR BIOME ApS (Copenhagen), JAFRAL (Ljubljana), JMI (USA), Weill Cornell Medicine, Novo Nordisk Foundation Center for Biosustainability (Denmark)

 米国・デンマーク・スロベニアの研究チームが、多様な病原性大腸菌に対するファージセラピーの開発を目的として、162種類の野生型ファージのライブラリーをスクリーンし、広域な大腸菌の表面受容体に結合しカーゴ (cargo)を安定して送達可能なファージ8種類を同定した。続いて、ファージの尾部繊維への変異導入 [*]と、SNIPR001CRISPR-Casシステムを利用することで (CRISPR–Cas-armed phages; CAPs)、特定のE. coli に有効な人工ファージを実現した [Fig. 1引用右図参照]。
  • バクテリアのバイオフィルムを標的とする人工ファージは、ファージに対する耐性E. coli  の出現を抑制し、共培養実験において、祖先の野生型ファージよりも優勢になった。
  • 4種類のファージを組み合わせたカクテル (SNIPR001)は、マウスモデルとミニブタモデルにおいて有効であり、マウス腸内のE. coli を、個々のファージよりも効果的に低減した。
 血液腫瘍患者に致死的感染を引き起こす可能性があるE. coli を選択的に殺傷するSNIPR001経口投与の第1相試験が進んでいる [NCT05277350]。
 
[*]
"Engineering Phage Host-Range and Suppressing Bacterial Resistance through Phage Tail Fiber Mutagenesis" Yehl K, Lemire S [..] Lu TK. Cell 2019-10-03. :ファージ尾部繊維の共通の構造スキャフォールド上に数百万種類のモチーフを帯びたバクテリオファージのライブラリーは、感染可能な宿主域の拡大または改変に利用可能であり、ファージ療法開発に有用である。
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット