[出典] 
論文 "Strand-selective base editing of human mitochondrial DNA using mitoBEs" Yi Z, Zhang X [..] Wei W. Nat Biotechnol 2023-05-22. https://doi.org/10.1038/s41587-023-01791-y [著者所属] Peking-Tsinghua Center for Life Sciences, Peking U, Changping Laboratory (Beijing)
著者解説 "CRISPR-free, strand-selective mitochondrial DNA base editing using a nickase" Nat Biotechnol 2023-05-22. https://doi.org/10.1038/s41587-023-01820-wFigure 1参照 

[背景]
 CRISPR-Casをベースとする塩基エディター (BE) によって一塩基編集が容易になった。一方で、 多くのミトコンドリア病の病因はBEsで修復可能な点変異である。しかし、CRISPRシステムをベースとするBEは、ミトコンドリア内膜を突破してガイドRNAを送達するという課題を伴っている。また、BEに必要なDNAデアミナーゼは主に一本鎖DNA (ssDNA) を標的とすることから、ミトコンドリア内のDNA二本鎖 (dsDNA)への適用には限界があった。
 この限界は、dsDNA内のシトシンを修飾可能なDddAデアミナーゼの発見 (DdCBEs)やTALE結合デアミナーゼ (TELEDs) によって突破されたが、この解決策は、配列嗜好性、核ゲノム上のオフターゲット編集のリスク、標的部位にて二重鎖切断に伴う編集精度低下といった課題を伴っていた。

[課題解決]
 DddA デアミナーゼを除いて、これまでに発見された DNA デアミナーゼの基質はssDNAに限定されていた。研究チームは、「mtDNA にニックを誘導することで、 ssDNAが生成され、デアミナーゼを介した塩基編集が可能になる」という仮説を立てて実験を進めた。
  • それぞれに、mitoBEミトコンドリアを標的とする配列とTALEに融合した「ニッカーゼ MutH (5'-GATC-3' の G の 5' にニックを入れる) 」と、「アデニンデアミナーゼTadA8e-V106W」とを、同時にトランスフェクトすることで、、A-to-G 編集 (ABE)で最大 77% の効率を達成した [著者解説のFig. 1引用右図参照]。
  • MutH には変異を導入して、ssDNA にニックを入れる範囲を拡大した。
  • また、TadA8e-V106W と組み合わせると mtDNA を効果的に編集できる他のニッカーゼ、Nt.BspD6I C末端ドメインおよび FokI-FokI-D450Aも同定した。
  • さらに、ニッカーゼとシトシンデアミナーゼを組み合わせることで、mtDNA の C-to-T 編集 (CBE) が可能になり、ニッカーゼとデアミナーゼを同一のTALE に融合することも効率的に機能することを確認した。
  • 注目すべきことに、LHON(Leber's hereditary optic neuropathy)患者由来の細胞におけるMT-ND4 (ミトコンドリアにコードされるNADHデヒドロゲナーゼ4をコードする遺伝子) のG11778A変異を、ミトコンドリアABE (mitoABE) によって修正し、ミトコンドリアの機能が大幅に回復することに成功した。
 本研究は、ニッカーゼとデアミナーゼを組み合わせることで、mtDNA の鎖選択的塩基編集が可能になることを示したが、 MutH を介した切断の基礎となる規則を研究することで、ニックの入っていない鎖で編集が発生する傾向があることも発見した。
 mitoABEの動作原理は次のように考えられる [先の挿入図参照]:ニッカーゼが標的部位でssDNAを誘導し、その後、同じ部位を標的とするデアミナーゼ (本研究では、TadA8e-V106W) によって脱アミノ化される。 mtDNAの修復と複製後、脱アミノ化されたアデニンはニックの入っていない鎖上に残り、鎖選択的なAからGへの変換が進行する(Fig. 1 - c)。このモデルは、mitoABEだけでなくmitoCBEにも当てはまる。
 全ゲノムハイスループットシークエンシングの結果からは、mitoBE (mitoABEとmitoCBE) がミトコンドリアゲノムまたは核ゲノムに対して検出可能なオフターゲット効果を示さず、mtDNAの大きな挿入や欠失も誘導しないことが確認された。
 したがって、mitoBE は mtDNA を編集するための正確かつ効率的なツールであり、ミトコンドリア遺伝病の治療に幅広く応用できる可能性がある。
 
[将来展望]
 本研究において、mitoBE を利用することで、オフターゲット効果を最小限に抑えながら、mtDNA における鎖優先的な A から G および C から T の塩基編集を達成した。さらに、著者らはこのアプローチ(図1c)を核ゲノム塩基編集に適用し、CRISPR フリーのニッカーゼが広くDNAの塩基編集に利用できる可能性を示した。
 一方で、mitoBE の分子機構モデルにはさらなる検証が必要である。ここでは、ニックの入った mtDNA鎖 がニックが入らなかったmtDNA鎖よりも優先的に ssDNA を形成し、効率的な脱アミノ化を促進すると想定したが、実験によるさらなる確認が必要である。
 また、mitoBE を使用した mtDNA 塩基編集の精度が向上したにもかかわらず、一本鎖 DNA の編集ウィンドウ内で複数の塩基が編集されることが多く、標的部位の正確な編集が困難になる課題が残っている。
 さらに、mitoBE によって達成される平均編集効率は、現在の核ゲノム塩基編集ツールよりも低くなります。これらの領域はすべて、将来の研究で最適化する必要があります。

 [参考]